ispace HAKUTO-R ミッション2 着陸失敗 – レーザー測距の遅延と減速不足が原因、しかし「不屈の精神」で次へ

[更新]2025年7月11日12:23

ispace HAKUTO-R ミッション2 着陸失敗 – レーザー測距の遅延と減速不足が原因、しかし「不屈の精神」で次へ - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年6月6日午前9時、ついに運命の発表が行われた。株式会社ispaceによるHAKUTO-R ミッション2は、日本初・アジア初の民間月面着陸を達成することなく終了した。しかし、この失敗は決して終わりではない。

🚨 午前9時の記者会見で正式に失敗を発表

既報で「結果保留」としてお伝えしていたHAKUTO-R ミッション2だったが、2025年6月6日午前9時からの記者会見で袴田武史CEOより正式に着陸失敗が発表された。

【参考資料】

袴田CEO: 「サクセス9(着陸完了)の確認が困難と判断していますが、着陸ができておりませんので、失敗と捉えて問題ありません」

着陸予定時刻から約5時間後のこの発表は、2年越しの復活への挑戦に区切りをつける重要な瞬間となった。

⚙️ 技術的な失敗の詳細分析 – 192m高度まで良好だった機体

着陸シーケンスの経緯

午前3時13分: 着陸シーケンス実行コマンド送信
午前3時15分: 高度約100kmから最終降下開始
午前4時15分30秒頃: 着陸予定時刻90秒前に突然通信途絶
午前4時17分: 着陸予定時刻 – しかし成功を示すデータなし

主要な技術的問題点

記者会見で氏家亮CTOが明らかにした技術的な失敗要因は以下の通り

1. レーザーレンジファインダーの測定遅延

  • 本来高度10-3kmで有効測定を開始予定
  • 実際は1-1.5kmからの測定開始となった
  • この遅延により着陸制御が困難になった

2. 減速不足の発生

  • 月面着陸に必要な速度まで十分に減速できなかった
  • 測距遅延との因果関係は現在解析中

3. 192m高度での通信断絶

  • 最後のテレメトリは高度192mまで取得
  • その時点での姿勢データは良好
  • エンジン系統にも問題は見られなかった

氏家CTO: 「レーザーレンジファインダー自体は予定通りの時刻にしっかり動作していましたが、計測そのものは実際にはもっと後の方で起こっていました」

🔄 Mission 1との違い – 異なる現象を確認

今回の失敗は、2023年4月のMission 1とは異なる現象であることが確認された。

項目Mission 1(2023年4月)Mission 2(2025年6月)
主要因クレーターの影響による高度センサー誤認識レーザーレンジファインダーの測定タイミング遅延
着陸地点複雑な地形平坦な「氷の海」(Mare Frigoris)
通信断絶着陸直前高度192mで断絶

氏家CTO: 「見られている現象としてはミッション1と異なるものが見られています。原因についてはこれから探っていく必要があり、ミッション1と同じ要因だったか言及することはできません」

これは、ispaceが過去の失敗から学び、異なるアプローチで挑戦していたことを示している。

📊 契約への影響 – CLPS契約は継続、NASA契約は終了

NASAレゴリス販売契約 ❌

袴田CEO: 「今回ミッション2でNASAと締結していたレゴリスの販売契約は、残念ながら実行できる状態ではありません。契約上は基本的に終了となると思います」

CLPS契約への影響なし ✅

袴田CEO: 「契約の内容に特にミッション2の成否によって契約が解除されるような条項は入っていませんので、その通りでございます」

この点は、今後のミッション3以降への道筋を確保する重要な要素となる。

🚀 失われた貴重なペイロード群

今回のミッションで失われた可能性が高いペイロードには、未来への希望を込めた技術実証が含まれていた:

搭載ペイロード一覧

  1. 高砂熱学工業 – 月面用水電解装置(持続可能な生活基盤技術)
  2. ユーグレナ – 食料生産実験モジュール(宇宙での自給自足システム)
  3. TENACIOUSローバー – 5kg小型月面探査車(「不屈」の意味)
  4. 台湾国立中央大学 – 深宇宙放射線プローブ(宇宙環境研究)
  5. バンダイナムコ研究所 – GOI宇宙世紀憲章プレート(文化的メッセージ)
  6. スウェーデンアーティスト – 「ムーンハウス」アート作品(宇宙と地球を結ぶ芸術)

これらの技術実証機会の損失は大きいが、各パートナーとの関係は今後のミッションでも継続される見込みだ。

💪 「諦めない心」 – 関係者のコメントに見る不屈の精神

ispaceの企業理念

袴田武史CEO

「この結果を生かしてミッション3、ミッション4次につなげることが何よりも重要」

「重要なのは不可能ではないということです。先日アメリカの民間企業も着陸しており、日本のJAXAも着陸しています。不可能ではない」

野崎順平CFO

「一番大事なことは決して諦めないことです…必ず次につなげる強い思いを持っています」

「当社含めアメリカの2社の着陸結果だけを見ると、当社が一歩出遅れていることは事実として認めざるを得ない。ただし、まだ先頭集団から離脱していると判断するのは早い」

氏家亮CTO

「月面着陸はやはり難所だと認識しています」

「ミッション3、ミッション4はレジリエンスとは違う形のランダーになります。しかし…反映できる部分があると考えています」

🌍 世界の民間月面探査競争 – 現在の状況

成功企業 ✅

  • 2024年2月: Intuitive Machines社(アメリカ)が民間初の月面着陸成功
  • 2025年3月: Astrobotic社(アメリカ)も成功

挑戦中 🔄

  • ispace: 2回の挑戦、2回とも着陸直前で失敗
  • その他各国企業: 準備段階

現在、民間月面着陸成功はアメリカ企業2社のみ。日本・アジア初の快挙はまだ達成されていない。

🔮 今後の展望 – ミッション3・4への道筋

技術的改善点

氏家CTO: 「ミッション3、ミッション4はレジリエンスとは違う形のランダーになります」

予想される改良点:

  • 🚀 より大型の着陸船設計
  • 🎯 今回のデータを活かした制御システム改良
  • 📡 レーザーレンジファインダーの性能向上
  • 🔄 冗長性を持った通信システム

ビジネス展開

袴田CEO: 「ミッション3以降は大型化して事業として軌道に乗せていくミッションであり、その実現に向けて取り組んでいきたいです」

📈 失敗から学ぶ価値 – データ取得の成果

今回の挑戦では失敗に終わったものの、以下の貴重なデータが取得された:

取得できた重要データ

  • 着陸直前までの詳細なテレメトリデータ
  • レーザーレンジファインダーの実際の動作状況
  • エンジン系統の信頼性確認
  • 姿勢制御の有効性検証
  • 通信システムの限界点把握

これらのデータは、ミッション3・4の成功に向けた貴重な資産となる。

🌟 「RESILIENCE」の名に込められた真の意味

Mission 2の月着陸船に「RESILIENCE(復活力・回復力)」という名前が選ばれたのは偶然ではない。今回の結果こそ、この名前の真価が問われる瞬間だった。

失敗は終わりではない。諦めないことが、真の「レジリエンス」だ。

2年間の準備期間を経て、技術的改良を重ね、新たな着陸地点で挑戦したispaceチーム。その努力は決して無駄ではない。得られたデータ、蓄積された経験、そして何より「諦めない心」が、次のミッションへの確かな礎となっている。

📊 日本宇宙開発史における位置づけ

今回の挑戦は、たとえ失敗に終わったとしても、日本の宇宙開発史において重要な意味を持つ:

歴史的意義

  • 🌕 民間主導での月面探査への挑戦
  • 🌕 国際パートナーシップの構築
  • 🌕 商業月面輸送ビジネスモデルの確立
  • 🌕 失敗から学ぶ文化の醸成
  • 🌕 次世代への技術継承

🎯 次の挑戦への期待

袴田CEO: 「現時点では月面着陸完了の見込みがないことから、まずはこれまで取得できているテレメトリの解析を迅速に実施し、原因究明に努めることが責務であると考えています」

ispaceは既に原因解析に着手しており、詳細な結果は今後公表される予定だ。この解析結果が、ミッション3・4の成功への重要な鍵となる。

【用語解説】

レーザーレンジファインダー: 月面との距離を測定する光学測距装置。着陸制御において極めて重要な役割を果たす。

テレメトリ: 宇宙機から地上管制室に送信される機体状態データ。エンジン、電力、姿勢、速度などの情報を含む。

ハードランディング: 制御された減速を伴わない激突着陸。機体とペイロードが破損する可能性が高い。

CLPS: Commercial Lunar Payload Services。NASAの商業月面ペイロード輸送サービス契約。

マイルストーン: プロジェクトの進捗を測る重要な節目。ispaceは10段階で設定している。

Mare Frigoris(氷の海): 月の北半球にある玄武岩質の平原。比較的平坦なため着陸に適している。

【参考リンク】

【参考動画】

【編集部後記】

今回のHAKUTO-R ミッション2の結果は、確かに期待していた成功とは異なるものでした。しかし、取材を通じて感じたのは、ispaceチームの「諦めない精神」の強さです。

宇宙開発における失敗は、決して無駄ではありません。

Apollo計画でも、多くの失敗を経て月面着陸が実現されました。SpaceXも、数々のロケット爆発を経て今日の成功があります。ispaceもまた、この失敗を糧として、必ず月面着陸を実現するでしょう。

読者の皆さんへの質問

今回の結果をどのように受け止められましたか?

次回のミッション3・4に向けて、どのような技術的改善を期待されますか?

期待される改善点:

  • より精密な測距システム
  • 冗長性を持った通信システム
  • AI技術を活用した自律制御
  • より大型で安定した着陸船

innovaTopia編集部では、今後もispaceの挑戦を追い続けます。日本発・アジア初の民間月面着陸実現の日まで、ともに応援していきましょう。

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From: 文献リンク【6月6日午前4時17分】HAKUTO-R ミッション2、ついに月面着陸へ – 「復活力」が紡ぐ15年越しの夢

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TaTsu
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