はい、iSpace株式会社によるミッション2に関する記者会見のトランスクリプトに基づき、その内容をQ&A形式でまとめました。 --- ### iSpace ミッション2 記者会見 Q&A #### 記者会見の冒頭説明 * 記者会見は当初の予定時刻(午前9時)から遅れて開催されました。これに対し、アイスペース代表取締役CEOの袴田武史氏よりお詫びがありました。 * 登壇者は、代表取締役CEO & ファウンダーの袴田武史氏、取締役CFO事業統括エグゼクティブの野﨑順平氏、CTOの氏家亮氏でした。 * 会見の冒頭で、事前に公開されたプレスリリースの内容が読み上げられました。 #### プレスリリースの内容概要 * 株式会社iSpaceは、本日(2025年6月6日金曜日)に予定していた民間企業として日本初・アジア初の月面着陸を目指すミッション2 SNBC Rベンチャー ムーンのレジリエンスランダーによる着陸について報告しました。 * **午前8時現在、ランダーとの通信回復が見込まれず、月面着陸を確認するマイルストーン「サクセス9」の完了が困難と判断し、ミッション2の終了を判断したことを発表しました**。 * 日本橋の白金高輪ミッションコントロールセンターから、午前3時13分に着陸シーケンス実行コマンドが送信されました。 * ランダーは高度約100kmから約20kmまで慣性降下した後、予定通り主エンジンを噴射し減速を開始しました。 * ランダーの姿勢がほぼ垂直になったことは確認できましたが、その後テレメトリーが消失しました。 * 午前4時17分の着陸予定時刻を過ぎても、着陸を示すデータは受信できませんでした。 * **現時点で確認できていることとして、月面との距離を測るレーザーレンジファインダーにおいて有効な測定値の取得が遅れたこと、また、予定されていた月面着陸に必要な速度まで十分に減速できていなかったことが確認されています**。 * これらの状況から、**ランダーは最終的に月面へハードランディング(激突または墜落)した可能性が高いと現時点では推測されています**。 * 通信途絶後、ランダーの再起動を試みましたが、通信の再確立には至りませんでした。 * ミッション終了の要因については、取得されたテレメトリーの詳細な解析を実施中であり、完了次第報告する予定です。引き続き管制室でランダーの現状把握に努めているとのことです。 --- #### 質疑応答 **Q: 【毎日新聞 伊藤氏】今回の着陸は失敗したという理解で良いですか?** A: 【袴田CEO】サクセス9(着陸完了)の確認が困難と判断していますが、**着陸ができておりませんので、失敗と捉えて問題ありません**。 **Q: 【毎日新聞 伊藤氏】今回確認されている現象(高度を測るシステムの有効なデータ取得の遅れ、減速不足)は、前回(ミッション1)と同じようなシステムトラブルや減速システムのトラブルが原因と見て良いですか?** A: 【氏家CTO】現時点で分かっているのは、高度を測るセンサーの有効なデータが取れるタイミングが想定よりも遅かったこと、そしておそらくそれに(_関連して_)減速が十分できていなかったことです。見られている現象としてはミッション1と異なるものが見られています。原因についてはこれから探っていく必要があり、ミッション1と同じ要因だったか言及することはできません。 **Q: 【毎日新聞 伊藤氏】ミッション1の失敗に学び十分な対策を講じたはずの高度把握システムで再びトラブルが出たことについて率直な思いを聞かせてください。** A: 【袴田CEO】今回2回目の失敗であり、この結果については重く受け止めたいと考えています。しかしながら、分かっているのは事象の面であり、原因はまだ明確に分かっていません。原因を解明することで、前回の学びがしっかり適用できていたか改めて判断する必要があります。 **Q: 【毎日新聞 伊藤氏】今回の失敗は今後のミッション3以降の実施に何か影響を与えますか?** A: 【袴田CEO】現在の事象レベルでは、直接的な影響があるとは明確には申し上げられません。根本的な原因を解明することで、ミッション3やミッション4にどのような対策をすべきか検討していきたいと考えています。 **Q: 【日経新聞 西氏】今どういう気持ちでいるか、多くの企業が支援した中で日本にとって大きな一歩になると思っていた今の状況をどう見ているか、また今回の失敗を2027年以降のミッション3、ミッション4にどう生かすか教えてください。** A: 【袴田CEO】2回目も着陸できていない事実を重く受け止めたいです。この結果を生かしてミッション3、ミッション4次につなげることが何よりも重要であり、気持ちを切らすことなく前に進める強い気持ちを持ち続けたいです。多くのご支援をいただいた方々に対し、非常に申し訳ない気持ちもあります。しかし、ご支援への責任として、次につなげていくことが責務だと考えており、日本の月探査活動が続く潮流を維持していきたいです。ミッション3、ミッション4への生かし方については、原因次第というところがあり、原因をしっかり解析してつなげていきたいです。ミッション1のチームのレジリエンス(立ち直る力)を考えると、ミッション2もしっかり原因を分析して次に行かせるチームだと考えています。 **Q: 【東洋経済 奥田氏】ミッション1失敗後、他社より3〜4年遅れると厳しいが先頭集団にいることが大事という認識を示されていましたが、ミッション3の2027年への延期発表もあり、現状でなお先頭集団にいるという認識を持てますか?時間差は競争上許容されますか?許容されるとして競争上どういう影響が出ますか?** A: 【袴田CEO】ミッション2で成功させたかったですが、残念ながら着陸できていません。特にアメリカではファイアフライ社やインテュイティブ・マシーンズ社が着陸しており、ここで着陸しておきたかったというところはあります。次のミッションが2027年ということで、事実として少し時間があきますが、その間にミッション2の経験を生かして対策を打てる時間もあり、プラスに働く面もあると考えています。世界的に民間企業で着陸船を飛ばせるプレイヤーは非常に限られており、現実として前述の2社と当社、そしてこれからブルーオリジンが打ち上げを迎えると思われる状況です。なるべく早くキャッチアップしていきたいです。 A: 【野崎CFO】当社含めアメリカの2社の着陸結果だけを見ると、当社が一歩出遅れていることは事実として認めざるを得ないと考えています。ただし、まだ先頭集団から離脱していると判断するのは早いと考えています。月へ輸送船を運ぶ技術を持つプレイヤーは限定的であり、当社が引き続き存在感を示せる場所はあると思っています。世界中のお客様は2028年、2029年、2030年と非常に長いスパンで見ており、当社が2027年に2つのミッションを持つことは、お客様に重要なミッションを見せていく機会があるということです。そこでしっかり実績を見せて、お客様の信頼を得ていく段階だと考えています。 **Q: 【フリーライター 船氏】ランダーからどのくらいデータが降りてきていますか?(着陸予定時刻の前後、原因究明に十分か)** A: 【氏家CTO】現時点で確認している範囲では、最後のテレメトリーは高度192mのところまで見えています。スピードとしては想定より早かったです。姿勢のデータもそこまでしっかり取れており、どういう形になっているか分かっています。この192mは推定の高度であり、今後しっかり分析をして、どこまで行けていて何が足りなかったのかを分析し反映していきたいです。データは原因究明に十分かという点については、まだ詳細な分析が必要ですが、得られたデータから要因のシナリオはいくつか考えており、データで詰めて確定させ、反映していくプロセスが必要だと考えています。 **Q: 【フリーライター 船氏】今の率直な感想を聞かせてください。** A: 【野崎CFO】まず、ペイロードのお客様、白金高輪のパートナー、応援してくださる皆様、株主様全ての方々に対し、着陸に至らなかったことに関し、素直に申し訳ない気持ちがあります。ミッション2の運用でエンジニアは本当に一生懸命やってきましたが、彼らが目指した地点まで私が導けなかったことに関しても責任を感じています。着陸という局面だけを見ると、ミッション1とミッション2の間でどのような進歩があったか言葉にできないところもあり、しっかり反芻(はんすう)する必要があります。しかし、ここで立ち止まることなく、これをしっかり次に反映し、我々が目指すゴールに向かって進んでいきたいです。 **Q: 【AP通信 マルシアダ氏】ランダーは月に激突または墜落したと思って良いですか?** A: 【氏家CTO】減速が十分に至っていないという事実からすると、**月面に衝突したと考えるのが妥当だと思います**。 **Q: 【スペースフライト ウェルロビンソン・スミス氏】ミッション1の事象と何か近いものはありますか?** A: 【氏家CTO】現時点では明確な回答は難しいですが、当日見ていたテレメトリーとしては**ミッション1と全く同じものではないことは分かっています**。ただし、原因を分析した結果、似たような要因ということも考えられます。 **Q: 【CNN ジャッキーワター氏、スペースポーンライン マルセア・スミス氏】レジリエンスランダーが月に墜落した場合、NASAのLROなど月周回衛星に確認を依頼することは想定されていますか?** A: 【野崎CFO】着陸に至らなかった原因をしっかり理解することが大事であり、そのようなご協力がいただける方々とは積極的に協力し、我々自身の知見としていきたいと考えています。 **Q: 【日経クロステック 内田氏】レーザーレンジファインダーの測定値が想定高度より低いところから始まった点について、主エンジンによる減速分に問題があった可能性はありますか?** A: 【氏家CTO】現時点で明確な回答は難しいですが、私が管制室で見ていた範囲では、**エンジン自体に何かしらの不具合があったという認識は今のところしていません**。そのため、エンジンによってレーザーレンジファインダーの問題が起きたというシナリオの可能性は低いと考えています。 **Q: 【ロイター通信 小や氏】株主や投資家への説明、今後の事業継続にあたっての財務基盤の強靭さ、今後の資金調達について教えてください。** A: 【野崎CFO】多くの方々に株を持っていただいており、ご心配をおかけしていると考えており、大変申し訳なく思っています。この不安を払拭し、引き続き当社を信じていただけるよう最善を尽くします。財務面については、株価は非常に大事ですが、現時点でおっしゃるような急速に財務状況が悪化して会社が難しくなる状況ではありません。幸い、様々な金融機関や個人・機関投資家にご支援いただいている状況です。一方で、収益の黒字は実現できておらず、元々資金の手当てが必要な状況は変わっていません。引き続き株主や金融機関へより一層の説明責任を果たしていかなくてはなりません。皆様が最も求めるものは、事業継続をしっかり続け、成果を出していける道筋をつけることだと考えており、そこに全力を集中します。 **Q: 【NHK 平田氏】高度認識が遅れた点について、具体的にいつ頃測定する予定が、実際にはどれぐらいで認識しましたか?減速遅れが出た測定値はどのあたりですか?** A: 【氏家CTO】レーザーレンジファインダーについては、想定として10kmから3kmの間で計測が入るだろうと準備していました。**実際には高度1kmから1.5kmの間ぐらいでおそらく計測が始まったと推定しています**。スピードの減速遅れについては、計測が入ると推定値の補正が入るため、同じような高度の時点でスピードが高くなりすぎていると見られたと考えられます。それに反応してランダーはエンジンを全開で吹きましたが、減速が十分ではなかったシナリオだと考えています。 **Q: 【NHK 平田氏】原因究明にどれぐらいかかりますか?** A: 【氏家CTO】現時点で明確にいつまでとは難しいですが、すでにいくつかの有力なシナリオが出てきており、それを詰めていくとともに他の原因がないか調べて確定させます。いつまでもやるつもりはなく、**なるべく早い段階で原因を究明し、透明性高く共有することを目指します**。 **Q: 【時事通信 神田氏】LRFの推定が高度1kmから1.5kmで始まったのは、フェーズ4のピッチアップが終わった後、もっと早く始まらなければいけなかったのに初めて数値が出たという理解で良いですか?** A: 【氏家CTO】ピッチアップ自体の始まるタイミング等については、リアルタイムで見ている範囲では大きな問題があったとは認識していません。ただし、**実際の計測の反映が起こったのはそのピッチアップよりも後です**。全体の時系列はうまくいっていたが、ベースとなる測定値が間に合わなかったという感じです。なぜ測定が遅れたかについては、様々な要因が考えられ、しっかり分析したいです。 **Q: 【時事通信 神田氏】月まで探査機を届ける技術については、ミッション1と2で異なる経路で成功しているという評価についてどう思いますか?改めて最後の着陸が難所であるという認識についてどう思いますか?** A: 【氏家CTO】ミッション1、ミッション2と続けて月周回軌道までしっかり入れられており、特にミッション2はミッション1に基づいてかなりスムーズに運用が進んできたことは、エンジニアチームが準備してきた事実だと思います。そこに対しては高く評価しており、誇りに思っています。一方で着陸には至らなかった点があり、そこに期待していただいている皆様がいます。着陸は、他の探査機も含めてやはり難所だと認識しています。 **Q: 【時事通信 神田氏】最後のテレメトリー(高度192m)の測定時刻は、着陸予定時刻の何秒前でしたか?** A: 【氏家CTO】正確な時刻はまだ整理できていませんが、時刻が大きくずれていた感覚はありませんでした。着陸予定時刻より前にデータが消失したと思われます。どのくらい前かはまだはっきりしていません。 **Q: 【フリーランス 塚氏】推進系のデータ(燃圧、残量など)に特に問題はなかったですか?** A: 【氏家CTO】推進系のヘルスキーピングテレメトリーを見ている範囲では、**圧力や残量について特段問題はなかったと考えています**。ただし、推進のパフォーマンスそのものは姿勢や軌道の動きに最終的に出てくるため、そこはしっかり分析すべきです。 **Q: 【フリーランス 塚氏】測距を開始するタイミングはシーケンスですか、それともIMUデータから高度以下になったら開始ですか?** A: 【氏家CTO】レーザーレンジファインダー自体は、計測が可能となる距離よりも前から起動しています。ブレーキングマヌーバの頭あたりから既にセンサー自体は動いて距離を計測しようとしています。**レーザーレンジファインダー自体は予定通りの時刻にしっかり動作していましたが、計測そのものは実際にはもっと後の方で起こっていました**。 **Q: 【フリーランス 塚氏】減速不足が測距遅延の原因ですか、それとも測距遅延が減速不足の原因ですか?** A: 【氏家CTO】そこは非常に良い質問であり、まだ我々もしっかり分析しなければいけない点です。測距が遅れたから減速が足りなかったのか、あるいはスピードのせいで遅れてそこから何かしら影響があったのか、**因果関係はまだ現時点では分かっていません**。 **Q: 【フリーランス 塚氏】ミッション3以降は大型機になり同型機はありませんが、あえてレジリエンスで成功を目指すのか、それとも原因究明を活かして次ミッションに生かす方針ですか?** A: 【氏家CTO】ミッション3、ミッション4はレジリエンスとは違う形のランダーになります。しかし、ミッション1、ミッション2から反映してきているものは多くあり、今回のミッション2の結果も、違う形のランダーにはなりますが反映できる部分があると考えています。 **Q: 【日経新聞 こだま氏】NASAとのレゴリス(月面資源)販売契約はどうなりますか?次のミッションに引き継がれますか、それとも終了ですか?** A: 【袴田CEO】今回ミッション2でNASAと締結していたレゴリスの販売契約は、残念ながら実行できる状態ではありません。契約上は基本的に終了となると思いますが、今後どういった形で宇宙資源の取引を継続できるか、NASAとも協議したいと考えています。ただし、これはNASAのことなので、我々からどうなるか言えるところではありません。 **Q: 【朝日学生新聞社 駅野氏】必要な速度まで減速できなかった原因として考えられる可能性をいくつか教えてください。** A: 【氏家CTO】様々なシナリオが考えられます。**高度計測が遅れたことによって、速度の推定値の補正が遅れ、当然減速できる限界を超えるような速度になってしまっていた**という点が考えられます。その他、姿勢の面でおかしいことがあった可能性(今のところ認識されていませんが、あれば距離の測り方が変わり問題が生じる)、推進系の問題の可能性も考えられます。もちろんソフトウェアの問題、他のセンサーの問題も考えられます。現在は多様なシナリオがある中で、有力なものを絞り、実際にあったであろう事実のシナリオを詰めている最中です。 **Q: 【スペースフライナウ ウィル・ロビンソン・スミス氏】今回ミッション2で運用したレジリエンスランダーと、今後ミッション3で運用予定のApex 1.0に技術的なオーバーラップはどのぐらいありますか?** A: 【氏家CTO】ランダーの大きさはかなり違い、構造や推進系も大きく異なります。ただし、電気系の部分やソフトウェア、コンピューターといったノウハウとしては引き継いでいける部分はあると考えています。ミッション1、ミッション2のノウハウや教訓を反映していけると思います。 **Q: 【NHK 山内氏】レーザーレンジファインダーについて、分かりやすくどういうものか教えてください。ミッション1と同じものか、異なるものか?装置を動かすソフトウェアはiSpace自身が開発しているか?** A: 【氏家CTO】レーザーレンジファインダーは、降下中に距離(高度)を測るセンサーです。レーザーを発射し、その反射波を受けて、飛んでくる時間や周波数の変化から距離を測る単純なセンサーです。 A: 【氏家CTO】ミッション1とは異なるレンジファインダーを使っています。これは、ミッション1で使っていたセンサーのサプライヤーが製造を停止したため、代替となるものを同じ仕様で調達したものです。 A: 【氏家CTO】レーザーレンジファインダーというコンポーネントの中のソフトウェアやFPGA(ロジック)はサプライヤーのものです。それをコントロールしていくソフトウェアはiSpaceのもので、そこはインターフェイスの部分で変わる部分はありますが、使い方はミッション1と変わらないようになっています。 **Q: 【NHK 山内氏】前回から改良した点(ソフトウェア、アプローチ)とレーザーレンジファインダーの関係についても教えてください。** A: 【氏家CTO】ミッション1から2に向けて、ソフトウェア面の改善や、着陸地点へのアプローチの仕方の改善を行ってきました。今回ミッション1とは違う事象が見られており、まだ分析が必要ですが、ミッション1とは違う事象で何かしら問題があったのではないかと考えています。 **Q: 【NHK 山内氏】今回の高度計測は正しくできたかという認識は?** A: 【氏家CTO】回答は難しいですが、私が見ていた192mという高度が本当に正しいかはしっかり見なければいけません。LRFが測っていた高度とランダー側が推定把握している高度がどれぐらい近しいかです。運用中に見ている範囲ではそこが大きくずれていた認識はありませんが、詳細な分析が必要です。 **Q: 【フリーランス 井上氏】Google Lunar X Prizeの頃から月面を目指す思いに変化はありましたか?** A: 【袴田CEO】Google Lunar X Prizeから15年経ち、宇宙を取り巻く環境、特に民間の事業として大きく変わってきているのを肌身で感じています。目指す月も大きな変化が起こっており、当社だけでなくアメリカの他社も月に向かっています。こうした変化はiSpaceにとっても追い風であると考えています。軌道まで行けている実績もあり、この大きな流れが世の中として変わることはないと思っています。当社としては、今後もミッション3、ミッション4を手掛けて、まずはキャッチアップ、そして将来的にはグローバルでリードを取れるような事業の進展を引き続き目指していきたいです。 **Q: 【日経BP 高橋氏】ミッション3のランダーは大型化しソフトも異なるが、着陸がその分難しくなるのか、必ずしもそうではないのか教えてください。** A: 【氏家CTO】着陸の難易度はランダーの大きさも大事ですが、ターゲットとする地点と必要な精度によって変わってきます。その面で言うと、ミッション2に対してミッション3はより難しいところを狙っているのは事実です。一方で、今回ミッション2で得られたことは、より難しいところにチャレンジしていく中でも使っていけるデータや知見だと思います。 **Q: 【ライター 林氏】レーザーレンジファインダーが1〜1.5kmぐらいから測定した点について、姿勢変更し始めてから測距を始めたと考えて良いですか?減速が遅かったことと高度を測ることの関係が理解しにくいのですが。** A: 【氏家CTO】レーザーレンジファインダー自体の計測は、反射波が返ってこない距離よりも前から起動しています。ブレーキングマヌーバの頭あたりからセンサーは動いています。我々の期待値は10kmから3kmの間で最初の計測が入ることでした。結果的に有効な計測が得られたのは高度1kmから1.5kmの間でした。センサー自体は20kmからずっと動いていました。ランダーの側面にセンサーが付いており角度があるため、姿勢によって測れる距離が変わる可能性があります。姿勢が乱れていた可能性もありますが、今のところそういう傾向は見られていません。もう少ししっかり見る必要があります。 減速が遅かったことと高度を測ることの関係についてですが、LRFによる計測が遅れると、計測データに基づいた推定値の更新が遅れてスタートすることになります。その時点まではランダー自身がもっと減速できていると思っていたのが、1〜1.5kmで計測が入った時に「実際はもっとスピードがあったんだ」と気づいて修正しようとします。センサーは現実のデータを教えてくれるため、そこで擦り合わせていった結果として、ランダー自身が思っていたより減速できていなかったという形になります。この高度ならこのぐらいの速度でないといけないという誘導速度というものがあり、それと擦り合わせていきます。最初は推定値でやっていくので、計測が入って初めて事実が分かり、修正しようとしますが、ランダー自身の推進能力の限界があって十分な減速に至らなかったというのが、考えられるシナリオの一つです。つまり、実測値が入ってきたところで推定速度が早すぎて、減速が間に合わなかったというようなシナリオです。これはまだ断言しきると誤解を与える可能性があるため、事実としては、高度計測のスタートが遅かったことと、それに合わせてランダーがより減速を強化しようとしたが十分でなかったという点が挙げられます。 **Q: 【ライター 林氏】垂直の姿勢になってからデータが消失した時間について、推定着陸時刻より前か、いつ頃のタイミングか?** A: 【氏家CTO】時刻に関してはまだしっかり整理できていません。テレメトリーで見えている姿勢としては垂直の姿勢になっていることは確認しています。時刻的には、着陸予定時刻に対して後ろで起こっているという認識は今のところありません。おそらく**着陸前に消失していると思います**。どのくらい前かはまだはっきりしていません。 **Q: 【読売新聞 石川氏】ミッション3は商業サービス開始という位置づけは変わらないですか?** A: 【袴田CEO】我々の計画ではミッション1、2はR&Dミッション(技術検証・ビジネスモデル検証)、ミッション3以降は大型化し輸送量を増やして商業化(事業として軌道に乗せ利益獲得)という位置づけです。現状ミッション2が着陸できていないため、ミッション3をそのまま商業化として良いかという指摘もあるかと思いますが、ミッション2の原因がどういったところにあるかまだ把握できていない中で、ミッション3以降にどうインパクトするか見えていない状況です。そのため、ミッション3をどうするか、商業化と言って良いかの判断はこれからになるかと思います。ただし、根本的にはミッション3以降は大型化して事業として軌道に乗せていくミッションであり、その実現に向けて取り組んでいきたいです。 **Q: 【読売新聞 石川氏】NASAのCLPS契約はミッション2の成否に関わらず継続ということで良いですか?** A: 【袴田CEO】はい、**契約の内容に特にミッション2の成否によって契約が解除されるような条項は入っていませんので、その通りでございます**。 **Q: 【NHK 幸野氏】率直に月は難しかったという感覚ですか?(登壇者3名に)** A: 【袴田CEO】事実として2回目の着陸もできていません。普通に考えると、月の着陸は難しいです。技術的に元々簡単なものではなく、誰でもできるものではありません。難しいからこそやっていることに意味があると思っています。ただし、重要なのは不可能ではないということです。先日アメリカの民間企業も着陸しており、日本のJAXAも着陸しています。**不可能ではない**。その難しさをどのように克服していくかです。少なくとも着陸の体制のところまでは、ミッション2もある程度できています。その先が実現できていないのは確かであり、そこをどう解決していくかを突き詰めていきたいです。 A: 【氏家CTO】技術的に難しい部分はあると思いますが、その技術的な問題をしっかり解決していくのが自分の責任だと考えています。難しさが問題というより、私自身が不足していた部分、足りなかった部分があるのだろうと認識しています。ミッション1と2の間で着陸は至りませんでしたが、ミッション2に向けてチームの成長や効率、準備の面で非常に進歩したと認識しています。あとはこの難しさを解決するだけ足りない部分をしっかり理解し、チームに組み込んでいきたいです。 A: 【野崎CFO】元々簡単なものだとは思っていませんし、難しいからこそやっていることに意味があると思っています。8万人以上の株主に支えられており、ご心配おかけしていることは胸が痛いですが、応援してくださっているのは、我々が決して簡単ではない、意義のある難しさをやっていることにご支持をいただいているということだと思います。**一番大事なことは決して諦めないことです**。できないことでは絶対にないと思っています。今回の失敗の要因をしっかり分析し、必ず次につなげる強い思いを持っています。 **Q: 【NHK 幸野氏】iSpaceの強み(ルクセンブルク、アメリカ拠点)や「失敗できない国にしない」スローガンをどう活かしていくか教えてください。** A: 【袴田CEO】やはり継続させていくことだと思います。宇宙開発は過去の歴史を見ても簡単ではありませんが、実現してきた過去があります。SpaceXも最初失敗していますが、今や打ち上げ市場で大きなシェアを占めています。宇宙業界に足りないのは、**試行、実際にやる回数**だと思います。地上であれば何千回、何万回も試験を繰り返せますが、宇宙は1回飛ばすと繰り返しが難しい中でチャレンジしなくてはならない独特の難しさがあります。ただそれを継続的に何回もチャレンジし、最終的に実現していく、このチャレンジができる仕組み、人、文化を作っていくことが重要です。ここで私自身も諦めることなく、しっかり前を向いていきたいと思っています。 **Q: 【TBSテレビ 川上氏】着陸予定時刻(午前4時17分)以降、袴田CEOは涙が出ましたか?もし出なかったとしたらなぜですか?** A: 【袴田CEO】事実としては涙は流しておりません。正直少し出そうなタイミングもありましたが、**会社をリードする人間として、次に進む強い意思を持ち続けることが重要だと思っています**。今は涙を流すタイミングではないと考えていますし、原因も分からない中で軽率に感情的になることは良くないと思っています。最も重要なのは、今回の原因を重く受け止め、しっかり問題解決をして次のミッション3、ミッション4で結果を出していくこと、それをリードしていく責任を重く感じています。それを成し遂げるために、強い心を保ち続けたいです。 **Q: 【日経新聞オンライン 桑村氏】5月に示されたNASAの予算案(月探査から火星探査へ、月面開発を民間へ委譲)がiSpaceの事業に与える影響を教えてください。** A: 【袴田CEO】NASAの予算リクエストの一部が開示され、方向性としては予算の削減が見られます。ただし、当社が参加しているCLPS(商業月面輸送サービス)については、引き続き予算が維持される内容になっていると認識しています。限られた予算の中でNASAとしても重要なミッションを実現するためには、民間企業を活用してコスト効率を高めて実行していく必要性はさらに強くなっていると感じています。その中で、当社を含め民間の担う役割の重要性はさらに高まるものと認識しています。NASAの期待に応えられるよう、当社のアメリカ子会社がしっかり開発を進め、役割を担っていけるよう支援していきたいです。 **Q: 【ビジネスインサイダーJAPAN ユダ氏】今回の結果が次のミッション3の計画に何か影響を与えますか?現時点で考える調整や見直しがあれば教えてください。** A: 【氏家CTO】技術的な側面では、原因分析の結果によるかと思います。現時点で明確に何かお答えできることはあまりなく、より大事なことは、しっかり原因を解明した後に、それをUS(アメリカ子会社)の方にも共有し、その中で対策を一緒に練ることだと考えています。 ---