Varjo XR-3・Microsoft HoloLens 2が相次ぎサポート終了、エンタープライズXR市場の転換期

[更新]2025年8月10日15:52

 - innovaTopia - (イノベトピア)

フィンランドのXRヘッドセットメーカーVarjoが2025年7月に第3世代ヘッドセットVarjo XR-3、Varjo VR-3、Varjo Aeroの一般サポートを2026年1月1日で終了すると発表した。これらの製品は2020年12月に発表され、XR-3とVR-3は2021年1月から出荷が開始された。

Varjo Aeroは2021年末に発売された。サポート終了後はVarjo Baseのアップデートやカスタマーサポートが受けられなくなるが、拡張互換性パッケージを購入すれば2028年1月1日まで重要なセキュリティパッチが提供される。同社は最新のXR-4シリーズに開発を集中する方針である。2027年12月31日まで重要なセキュリティアップデートを提供する。一方、競合他社のMicrosoft HoloLens 2は2019年に発売され、約220億ドル相当の米軍IVAS契約に関連する課題を抱えている

From:
 - innovaTopia - (イノベトピア) End of an Era: Varjo Pulls the Plug on Gen 3 Headsets

【編集部解説】

今回のVarjoとMicrosoftの動向は、エンタープライズXR市場における重要な転換点を示しています。単なる製品の世代交代ではなく、業界全体の成熟度とビジネス戦略の変化を反映した動きと捉えるべきでしょう。

製品ライフサイクルから見る業界の健全性

VarjoがGen 3ヘッドセットのサポートを2026年1月に終了することは、実は業界の健全な発展を示す指標でもあります。同社のXR-3とVR-3は2020年12月に発表され、約5年間のサポート期間を経て次世代に移行する計画です。これは一般的なハードウェア製品のライフサイクルとして妥当な期間といえるでしょう。

重要なのは、Varjoが単にサポートを打ち切るのではなく、「Extended Compatibility Package」を有償で提供し、2028年まで重要なセキュリティパッチを継続する点です。この取り組みは、企業ユーザーの投資保護という観点から評価できます。

XR-4シリーズが示す技術的進化の方向性

Varjoの最新XR-4シリーズは、年間2,500ドルのVarjo Base Proという新しいソフトウェアライセンス階層を導入しています。これは単なる値上げではなく、AI強化統合や動的オブジェクトセグメンテーションなど、高度な機能を企業向けに提供する戦略転換を意味します。

XR-4シリーズの技術的特徴として、デュアル4K×4Kディスプレイと120°×105°の広視野角、デュアル20メガピクセルカメラによる高精細パススルー機能があります。特に注目すべきは、XR-4 Focal Editionに搭載された人間の視線に連動するオートフォーカスカメラ機能で、これはXR業界初の取り組みとなっています。

エンタープライズXR市場の構造変化

両社の動向は、エンタープライズXR市場の構造変化を反映しています。Fortune 100企業の25%以上がすでにVarjoの技術を活用しているという事実は、プロフェッショナルグレードのXR技術に対する確実な需要があることを示しています。航空宇宙、医療、自動車業界での訓練や設計業務において、高精細な視覚体験が不可欠となっているのです。

HoloLens終了が業界に与える影響

MicrosoftのHoloLens 2生産終了は、より深刻な意味を持ちます。同社は2027年末までサポートを継続するものの、後継機の開発計画は明確にされていません。これは、約220億ドル規模の米軍IVAS契約における課題と無関係ではないでしょう。

この状況は、エンタープライズAR/MR市場において競合他社にとって機会となる可能性があります。特に、医療や製造業で確立されたHoloLensのユースケースを引き継ぐ製品への需要が高まることが予想されます。

技術的課題と今後の展望

現在のXR技術における主要な課題は、バッテリー寿命、デバイス重量、視野角の制限、コンピューティングパワーの不足などです。Varjoの戦略は、これらの課題に対してクラウドストリーミングやNVIDIA Omniverseとの統合によって解決を図る方向性を示しています。

長期的な視点では、MR(Mixed Reality)技術が優位性を持つと予測されています。現実世界と仮想世界の自然な融合により、VRで発生しがちな酔いや疲労を軽減できるためです。

日本市場への影響と機会

日本のXR市場は拡大を続けており、ビジネス用途での活用が増加しています。特に教育・訓練分野での活用が増加しており、今回の業界再編は日本企業にとって新たな機会を提供する可能性があります。

国内では、Meta Questシリーズがビジネス用途で好調な一方、高精細なプロフェッショナル向けソリューションの需要も確実に存在します。Varjoの戦略転換は、この市場セグメントにおける競争激化を示唆しています。

投資とリスクの評価

企業のXR導入を検討する際は、ハードウェアコストよりもシステム全体の運用コストの方が重要な要素となります。特に、デジタル空間に同期させる外部情報やAIシミュレーションの整備・運用コストが大きな割合を占めるためです。

今回の動向は、XR技術の成熟化とともに、長期的な投資計画の重要性を示しています。技術進歩のスピードが速い分野だからこそ、適切な移行戦略と投資保護の仕組みが企業にとって不可欠といえるでしょう。

【用語解説】

PPD(Pixels Per Degree)
角度1度あたりのピクセル数を表す単位。人間の眼の解像度は約60PPDとされており、VR/MRヘッドセットの画質指標として重要な数値である。

パススルー機能
VR/MRヘッドセットに搭載されたカメラで現実世界を撮影し、ディスプレイに映し出すことで現実と仮想を融合させる技術。光学シースルー方式と比べて、より自然で高品質な複合現実体験を提供する。

フォービエイテッドレンダリング
視線追跡技術と組み合わせて、ユーザーの視線中心部分を高解像度で描画し、周辺部分の解像度を下げることで処理負荷を軽減する技術。

【参考リンク】

Varjo公式サイト(外部)フィンランドの企業向けXR/VRヘッドセット開発企業。人間の眼レベルの解像度を実現する高性能ヘッドセットを製造・販売している。

Microsoft HoloLens公式サイト(外部)マイクロソフトが開発したMRヘッドセット「HoloLens」シリーズの公式情報サイト。製品仕様や開発者向け情報を提供。

Varjo XR-4シリーズ製品ページ(外部)Varjoの最新世代XR-4シリーズの製品情報。4K×4K解像度と120°×105°の広視野角を実現。

株式会社エルザ ジャパン Varjo製品ページ(外部)日本国内でのVarjo製品の正規代理店。XR-4シリーズをはじめとするVarjo製品の販売とサポートを行う。

【参考動画】

Varjo XR-3、VR-3紹介トレイラーVarjo公式チャンネルによるXR-3およびVR-3の製品紹介動画。人間の眼に匹敵する解像度と広視野角の特徴を解説している。

【参考記事】

When will support end for older-generation models XR-3, VR-3, and Varjo Aero?(外部)Varjo公式サポートページ。XR-3、VR-3、Varjo Aeroのサポート終了について詳細な情報を提供。

HoloLens 2がサポートされている場所(外部)Microsoft公式ドキュメント。HoloLens 2の製造終了と2027年までのサポート継続について公式見解を発表。

【編集部後記】

今回のVarjoとMicrosoftの動向を見ていて、エンタープライズXR市場の転換期を実感しています。みなさんの業界でも、こうした技術の世代交代が起きているのではないでしょうか。

特に気になるのは、高精細なXR技術がもたらす可能性です。設計・医療・教育の現場で、これまで不可能だった体験が現実になりつつあります。みなさんの職場では、どのような場面でXR技術が活用できそうでしょうか。また、導入時の投資保護や移行戦略について、どのような点を重視されますか。

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乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!

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