ByteDanceがVR部門Picoを通じてミックスドリアリティゴーグルを開発中と報じられた。The Informationが2025年7月14日に報じたところによると、ByteDanceは軽量MRゴーグルを開発しており、デジタルオブジェクトを現実世界に重ね合わせる機能を持つ。サイズは127グラム(0.28ポンド)のBigscreen Beyond VRヘッドセットと同程度で、計算処理は別個のポケットサイズデバイスにオフロードして軽量化を図る。ByteDanceは遅延を減らすためのカスタムチップも開発中である。
このゴーグルはMetaが内部でPhoenix(以前はPuffinというコードネーム)と呼ぶ今後のMRグラスに類似したデバイスを目指している。ミックスドリアリティ市場はBrainy Insightsの予測では2023年の28億ドルから年平均成長率45.34%で2033年までに117.76億ドルに成長するとされる。
PicoはこれまでVR分野に特化していたが、Pico 4の販売不振によりPico 5 VRヘッドセットの開発を中止した経緯がある。ByteDanceがPicoを2021年に約7億7500万ドルで買収した。現在のところ発売時期や販売地域は不明である。
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ByteDance is reportedly working on mixed reality goggles
【編集部解説】
今回のニュースから見えるのは、ミックスドリアリティ市場における競争構図の新たな展開です。ByteDanceのMR参入は、単なる新プレイヤーの登場以上の意味を持っています。
まず技術的な観点から見ると、ByteDanceが採用する軽量化アプローチは、従来のVRヘッドセットの重量問題を解決するため、計算処理をポケットサイズの外部デバイスにオフロードする設計は、Metaが開発中のPhoenix(以前はPuffinというコードネーム)プロジェクトと似た発想です。これは業界全体が「装着感の向上」に向かっていることを示しています。
注目すべきは、ByteDanceがカスタムチップ開発まで手がけていることです。遅延を最小限に抑えるためのセンサーデータ処理に特化したチップは、MRが実用的な技術になるための重要な要素といえます。現在のMRデバイスの多くが抱える「現実とデジタル映像のズレ」という根本的な課題に、ハードウェアレベルで取り組む姿勢が見えます。
しかし、ByteDanceがこの分野に参入する背景には複雑な事情があります。同社のVR部門Picoは2023年にPico 4の販売不振を受けて次世代機Pico 5の開発中止を発表し、従業員数を1800人から800人へと大幅削減しました。これは単なる戦略転換というより、VR市場での苦戦を受けた方向転換と捉えるべきでしょう。
現在のMR市場の状況を見ると、先行するApple Vision Proも市場での普及に課題を抱えています。3500ドルという価格設定もあり、一般消費者への普及には時間がかかっているのが現状です。
このような市場環境で、ByteDanceがMR参入を決めた理由は何でしょうか。一つは、TikTokで培ったコンテンツ配信ノウハウをMRでも活用できる可能性です。MRデバイスの成功には技術的な完成度だけでなく、魅力的なコンテンツエコシステムの構築が不可欠であり、この点でByteDanceには優位性があります。
また、規制面での影響も考慮する必要があります。現在PicoのVRヘッドセットは米国では販売されておらず、TikTokを巡る政治的緊張を考えると、ByteDanceのMRゴーグルも同様の制約を受ける可能性が高いでしょう。
将来的な展望として、このMRゴーグル開発が成功すれば、Meta一強だった西側市場に新たな選択肢が生まれることになります。競争激化により技術革新が加速し、価格低下も期待できるでしょう。一方で、データプライバシーや安全保障の観点から、各国政府の規制動向が市場形成に大きな影響を与える可能性があります。
MR技術自体の可能性は依然として大きく、軽量化と低遅延の実現により、ゲームや娯楽だけでなくく、教育、医療、産業分野での活用が現実的になってきます。ByteDanceの参入は、この技術が真の転換点を迎えつつあることを示しているのかもしれません。
【用語解説】
ミックスドリアリティ(MR):現実世界にデジタル情報を重ね合わせる技術。VRのような完全な仮想空間ではなく、現実の映像にCGオブジェクトを自然に配置できる。
パンケーキレンズ:従来のフレネルレンズより薄型で軽量な光学レンズ。VR/MRデバイスの小型化に重要な技術。
低遅延(ローレイテンシー):入力から表示までの時間差を最小限に抑えること。MRでは現実と仮想の映像にズレがあると違和感が生じるため重要。
空間コンピューティング:3次元空間内でのコンピューター操作技術。従来の平面的なスクリーン操作から立体的な操作へと発展させた概念。
XR(拡張現実):VR、AR、MRを総称する用語。Extended Realityの略。
IPD(瞳孔間距離):左右の瞳孔の間隔。VR/MRデバイスでは個人差に合わせた調整が重要。
SteamVRトラッキング:Valveが開発したVR用位置追跡システム。外部センサーを使用してヘッドセットの正確な位置を検出する。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
MRデバイスが本格的に普及すれば、「空中に浮かぶディスプレイを操作する」というような、誰もが思い浮かべる未来的なイメージを体験する第一歩目となりえるのではないでしょうか。ByteDanceの参入により選択肢が増えることで、価格競争も激化し、より身近な存在になる可能性があります。まだ、MRデバイスを使用してどのような利便性や生活の変化が訪れるかというのは具体的にイメージが湧きにくいかと思われますが、これからの未来の拡張性は高まり、より独創的な未来を創造できるのではないでしょうか。