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7月8日【今日は何の日?】「ジョルジュ・バタイユ死す」エロティシズム概念をVR・メタバース空間での身体性と結びつける

[更新]2025年12月25日

死を見つめた図書館司書

1962年7月8日、フランスの思想家ジョルジュ・バタイユが64歳で死去しました。パリの国立図書館で司書として働きながら、彼は「エロティシズムとは何か」という問いを追い続けました。昼間は古文書を整理し、夜は人間存在の極限を探る文章を書く。その二重生活が、彼の思想の源泉でした。

バタイユが残した思想の核心は、「禁止」と「違反」の緊張関係にあります。人間は死を知るがゆえに、さまざまな禁止(殺人の禁止、性的タブー)を設けます。しかし同時に、その禁止を越えたいという衝動も抱えている。この矛盾こそが、人間を動物から分かつものだと彼は考えました。

死から60年以上が経った今、バタイユの思想はVRヘッドセットやメタバース空間という意外な場所で再び問われています。仮想空間に「入る」という行為は、身体の境界を越える試みかもしれません。

複製される身体、やり直せる違反

バタイユの時代、身体は一回限りの存在でした。一度起きた出来事は取り消せず、身体的な行為には常に不可逆性が伴っていました。

しかしVR空間では、身体は複製可能です。アバターは何度でも作り直せます。「触れ合い」はデータとして記録され、巻き戻すことができます。Meta Quest 3やVision Proを装着したユーザーは、物理的な身体の安全を保ったまま、仮想空間で他者と交わります。

2024年の調査では、VRChat利用者の約68%が「現実では不可能な身体表現」を理由にメタバース空間を利用していると回答しました。性別、種族、形状すら自由に選択できる身体。この流動性は、バタイユが前提とした「有限な肉体」という概念そのものを問い直します。

やり直しが可能な行為は、果たして「違反」と呼べるのか。

アルゴリズムという新しい禁止

メタバース空間には、**新しい形の「禁止」**が存在します。それは法律や道徳ではなく、アルゴリズムです。

VRChatやRec Roomといったプラットフォームでは、AI駆動のコンテンツモデレーションが24時間稼働しています。不適切な行動は即座に検出され、アカウントは停止されます。この監視システムは、従来の社会的制裁よりもはるかに迅速で包括的です。

興味深いのは、この「透明性」の中で生まれる抵抗です。暗号化された通信、匿名性を確保する技術、監視の目を逃れるための創造的な工夫。ユーザーたちは、完全に管理されたデジタル環境の中で、管理の外部を探し続けています。

一方、推薦アルゴリズムは別の問題を提起します。Metaのアルゴリズムは、ユーザーの過去の行動から「欲しがるであろう体験」を先回りして提供します。しかし、予測された快楽は本当に快楽なのか。既知の反復ではなく、未知への越境こそが体験の本質だったとしたら。

グリッチの中の聖なるもの

メタバース空間で最も興味深い現象は、むしろシステムの「バグ」に現れます。

アバターの身体が意図しない形に変形する瞬間。物理法則が突然破綻する瞬間。2023年、VRChatで発生した「ボーン・グリッチ」は、アバターの骨格が異常な形に歪む現象でした。多くのユーザーは不快感を訴えましたが、一部のユーザーはこの現象を「美しい」と表現しました。

これらのグリッチは、計算可能な世界の裂け目です。プログラマーの意図を超越し、合理性を破綻させる。完全に管理された環境において、管理の外部を垣間見せる窓のようなものかもしれません。

ハプティック技術の発展も、新しい問いを投げかけています。触覚フィードバック・デバイスによって媒介された「触覚」は、本物の触覚と同じ意味を持つのか。TeslaSuitやbHapticsのようなフルボディ・ハプティックスーツは、仮想的な接触を物理的な感覚として再現します。しかし、死のリスクを伴わない身体的感覚は、感覚と呼べるのか

問いは続く

バタイユが生涯をかけて追求したのは、「人間とは何か」という問いでした。動物以上であろうとする存在。死を知り、禁止を設け、それでもなお違反を求める存在。

VR・メタバース空間は、この問いを新しい形で提示しています。複製可能な身体、やり直せる行為、アルゴリズムによる監視、グリッチの中の偶然性。技術は人間存在の条件を変えつつあります。

図書館の静けさの中で思索を深めた哲学者の遺産は、ヘッドセットをつけた人々の体験の中で、今も生き続けているのかもしれません。


Information

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用語解説

  • エロティシズム:バタイユの哲学における中心概念。日常的な個の境界を破り、根源的な連続性を体験すること。単なる性的快楽ではなく、存在論的な越境を指す。
  • ハプティック技術:触覚フィードバック技術。振動や圧力などを通じて、仮想空間での「触れる」感覚を物理的に再現する技術。
  • アバター:仮想空間におけるユーザーの分身。外見、性別、種族などを自由に設定できる。
  • グリッチ:システムのバグや不具合。意図しない動作や表示の歪み。一部のユーザーはこれを芸術表現として利用する。
投稿者アバター
Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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