テクノロジーは、いつだって人の「もっとこうだったら」という願いや、純粋な「遊び心」から生まれてきた。完成された製品をただ使うのではなく、自らの手で仕組みを理解し、作り変えていく。そんなDIY精神こそが、イノベーションの源泉である。今回、その原点を追体験できる最高のイベント、「電脳秘宝館・マイコン展」が開催される。なぜ今、僕らはマイコンの時代に学ぶべきなのか?一緒に考えてみよう。
公益財団法人角川文化振興財団は、埼玉県所沢市の角川武蔵野ミュージアム4F、荒俣ワンダー秘宝館にて「電脳秘宝館・マイコン展」を開催する。会期は2025年7月19日から2026年4月6日までである。
本展は博物学者の荒俣宏が監修し、マイコン博物館(館長:吉崎武)が協力する。解説者として元『月刊アスキー』編集長の遠藤諭も参加し、Apple I(復刻版)や国産機など約70台のハードウェアを展示する。
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少年たちが手作りをした、手元にあった未来 現代の秘宝「マイコン」にせまる「電脳秘宝館・マイコン展」を開催
【編集部解説】
私たちinnovaTopiaが、なぜ今、40年以上も前の「マイコン」をテーマにした展覧会に注目するのか。そう思われた読者の方もいるかもしれません。それは、この展覧会が単なる懐古的なイベントではなく、現代のテクノロジーの「源流」と、未来を創造する「精神」に触れる、またとない機会を提供してくれるからです。
本展のタイトルにある「電脳秘宝館」という言葉は、非常に示唆に富んでいます。「秘宝館」の原型は、15世紀ヨーロッパの「ヴンダーカンマー(驚異の部屋)」に遡ります。これは、世界中から集められた珍しい品々を収蔵した部屋で、博物館の原型とも言われています。本展は、マイコンを単なる古い機械としてではなく、現代社会を形作った「驚異の品=秘宝」として捉え、その価値を再発見しようという試みなのです。
1970年代末まで、コンピューターは国家や大企業が所有する巨大で高価な「計算機」でした。しかし「マイコン」の登場は、その常識を覆しました。自らの手で組み立て、プログラムを打ち込むことで、個人がコンピューティングパワーを「所有」できるようになったのです。「My Computer」が「マイコン」の語源の一つとされるように、これは技術の民主化における一大転換点でした。この「誰もが創り手になれる」という思想こそ、アップルやマイクロソフトといった巨大企業を生み出す原動力となりました。
プレスリリースの中で語られる「自作」「探求」「遊び」というキーワードは、この時代の熱気を的確に表しています。それは、トップダウンで与えられた製品を消費するのではなく、自らの知的好奇心に従って未知の領域を切り拓いていくボトムアップのエネルギーでした。この精神は、現代のメイカームーブメントやオープンソース文化にも脈々と受け継がれており、技術革新が一部の専門家だけでなく、情熱を持った個人の手によっても成し遂げられることを証明しています。
本展で紹介されるのは、ハードウェアだけではありません。BASIC言語で自分だけの世界を創造し、キーボードを叩く音に未来を感じた、あの時代の「マイコン少年」たちの夢と情熱そのものです。私たちが日常的に使うスマートフォンやAI、クラウドといったテクノロジーも、すべてはこの一点から始まっています。当時の熱気に触れることは、現代のテクノロジーがどのような思想のもとに生まれ、どこへ向かおうとしているのかを理解する上で、重要な示唆を与えてくれるでしょう。
この展覧会は、テクノロジーの未来に関わるすべての読者にとって、自らの内なる「創造性」や「探究心」を再発見するきっかけとなるはずです。遠藤諭氏が言うように、胸の奥で眠っていた「何か」が目を覚ます体験が、そこにはあるのではないでしょうか。
【用語解説】
BASIC言語
1964年に教育用に開発されたプログラミング言語。平易な文法が特徴で、1970年代から80年代の多くの初期PCに搭載された。
カセットテープ(データ記録媒体として)
1980年代前後のPCでプログラムやデータの保存に利用された外部記憶媒体。音声信号としてデータを記録した。
8ビット / 16ビット
CPUが一度に処理できるデータ量を示す単位。8ビットは1980年代前半のホビーPCの主流で、後の16ビット化で表現力や速度が向上した。
マイクロプロセッサ
演算や制御などコンピュータの中核機能を集積した半導体チップ(IC)。その登場がPCの小型化・低価格化を実現した。
Minivac 6010
1962年発売のデジタルコンピュータ学習キット。リレーとランプで動作が視覚的に学べる教育用機器だった。
ASR-33
テレタイプ社が開発した業務用端末[27]。キーボード、プリンタ、紙テープ入出力を備え、初期コンピュータの入出力装置として広く利用された。
【参考リンク】
公益財団法人 角川文化振興財団(外部)
本展主催の財団。文学、映像、芸術など幅広い文化領域の振興を目的とし、角川武蔵野ミュージアムを運営する。
角川武蔵野ミュージアム(外部)
本展覧会の会場である図書館、美術館、博物館が融合した文化複合施設。建築家・隈研吾氏の設計で知られる。
ところざわサクラタウン(外部)
KADOKAWAが運営するポップカルチャーの発信拠点。ミュージアム、ホテル、イベントスペース等を備える。
マイコン博物館(外部)
本展に協力する東京都青梅市の私設博物館。1970年代のマイコンからそれ以前の計算機まで幅広く収蔵する。
Apple (日本)(外部)
本展でも特集されるApple I等を開発した企業。マイコン革命をリードし、現代PCの礎を築いた。
【参考動画】
【参考記事】
【編集部後記】
キーボードを叩く音に未来を感じた時代。今回のニュースに触れ、皆さんの心にはどんな思いがよぎりましたか?当時を知る方も、初めて知る方も、この展覧会が示す「自作と探求の精神」は、現代の私たちにも何かを問いかけているようです。テクノロジーの原点に立ち返り、未来へのヒントを一緒に探してみませんか。