業界アナリストのMing-Chi Kuoが2025年7月15日にMediumで発表した調査レポートによると、Appleは2026年後半に発売予定の初の折りたたみ式iPhoneについて、独自開発の折り目防止ディスプレイソリューションではなく、Samsung Display(SDC)の技術を採用する可能性が高いことがわかった。Appleは2026年夏からの安定した量産開始を確保するためにこの判断を下したと分析している。
Samsung Displayの折り目防止ソリューションには、Fine M-Tecが設計・製造するヒンジメカニズムが含まれる。Fine M-Tecは2026年第1四半期からAppleへのヒンジ出荷を開始し、Apple向けにベトナムの生産能力を拡大、1個あたり30〜35ドルでAppleに供給する見込みだと報じている。
Business Koreaの2025年4月の報道では、AppleがSamsung Displayに初の折りたたみ式iPhone用の柔軟なOLEDパネル製造を正式委託したと報じている。ET Newsは2025年7月に、Samsungが忠清南道牙山のA3工場で折りたたみ式iPhoneディスプレイ専用の生産ラインを構築した可能性があると報じた。DigiTimesによると、折りたたみ式iPhoneは最近プロトタイプテストに入り、2026年後半にiPhone 18シリーズと共に発売される予定である。
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Foldable iPhone may use Samsung’s crease-proof screen instead of Apple’s custom design
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【編集部解説】
Appleが独自技術に固執せず、Samsungのソリューションを採用するという決断は、同社の製品戦略における重要な判断と言えます。通常Appleは自社でコントロールできる技術を好む傾向がありますが、この判断は2026年という発売スケジュールを確実に守るための、現実的かつ合理的な選択と言えるでしょう。
折り目の問題は、折りたたみ式デバイスの最大の技術的課題の一つです。現在のSamsung Galaxy Z Fold 6やZ Flip 6でも折り目は完全には解消されておらず、Appleが求める「折り目なし」の実現には、Fine M-Tecが開発するレーザードリリング技術による微細構造が鍵となります。この技術により、従来のエッチング加工よりも精密なストレス分散が可能になります。
しかし、Samsungの折りたたみデバイスには耐久性に関する課題が報告されており、Galaxy Z Fold 4やZ Fold 5でヒンジの不具合や内側画面の故障が発生するケースが複数確認されています。Appleがより厳格な品質基準を設定し、1個30〜35ドルという高価格でのコンポーネント調達を行う背景には、こうした信頼性への懸念があると考えられます。
この技術が成功すれば、折りたたみデバイス市場全体の品質向上につながる可能性があります。一方で、推定価格が2000〜2500ドルという高額設定は、普及の妨げとなるリスクも抱えています。AppleがFine M-Tecのベトナム工場拡張に投資することは、アジア太平洋地域のサプライチェーン強化という戦略的意味も持っています。
長期的には、この折りたたみ技術が成熟すれば、より薄型で軽量なデバイスの実現や、新しいユーザーインターフェースの可能性が広がるでしょう。ただし、量産開始予定の2026年夏まで1年程度しかない中で、全ての技術的課題をクリアできるかは注視が必要です。
【用語解説】
SDC(Samsung Display Corporation)
Samsung Groupのディスプレイ製造部門。2012年に設立され、世界最大のディスプレイメーカーとして、スマートフォンやテレビ用のOLEDパネルを製造している。折りたたみディスプレイ技術でも業界をリードする。
レーザードリリング技術
ヒンジ部品製造において、レーザーを使用して微細な構造を作る技術。従来のエッチング加工よりも精密で、折りたたみ時のストレス分散を効率的に制御できる。
P1プロトタイプテスト
製品開発における初期プロトタイプ段階のテスト。設計の基本機能を検証する重要な段階である。
弾性限界
材料が元の形に戻れる限界点。これを超えると永久変形が起こり、折り目が残る原因となる。
OLEDパネル
有機発光ダイオードを使用した薄型ディスプレイ技術。曲げることが可能で、折りたたみデバイスに適している。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
Appleが自社開発に固執せず、ライバルでもあるSamsungの技術を採用するという戦略的な決断を、皆さんはどう見ますか?
完璧主義で知られるAppleが、今回は「スピードと安定性」を優先した背景には、市場投入のタイミングを逃せないという、折りたたみデバイス市場ならではの激しい競争があるのかもしれません。
2026年に登場が見込まれる折りたたみiPhoneは、私たちのスマートフォン体験をどう変えてくれるでしょうか。タブレットサイズの画面をポケットに入れて持ち歩ける未来を、皆さんはどんな用途で活用したいと考えますか?