日本のリクルートホールディングスは2025年7月11日、傘下の求人サイトIndeedと企業口コミサイトGlassdoorで約1300人の従業員を削減すると発表しました。
この人員削減は、同社のHRテクノロジー部門の全従業員数の約6%に相当します。今回のAI戦略に伴う再編により、Glassdoorの事業はIndeedに統合され、GlassdoorのCEOであるクリスチャン・サザーランド=ウォン氏は10月1日付で退任します。
また、Indeedの最高人事・サステナビリティ責任者であるラフォーン・デイビス氏も9月1日付で退任することが決定しています。リクルートホールディングスCEOの出木場久幸氏は、AIの世界的な変化に適応する必要性を理由として挙げ、人員削減は主に米国の研究開発、人事、サステナビリティ部門に及ぶと説明しました。
From: Looks like 1,300 Indeed and Glassdoor staffers will need their former employer’s websites
【編集部解説】
今回のリクルートホールディングスによる人員削減と組織再編は、単なるコストカットの話ではありません。これは、AIが「仕事を探す」という行為そのものを、根底から作り変えようとしている現実を象徴する出来事です。
我々innovaTopiaがこのニュースを重視するのは、まさに「Tech for Human Evolution」という我々のテーマが、今、人事(HR)という極めて人間的な領域で試されているからです。
リクルートのCEO、出木場久幸氏が語る「AIが世界を変えている。我々も適応しなければならない」という言葉が、今回の決断のすべてを物語っています。彼のビジョンは、AIを単なる効率化ツールとして使うのではなく、事業のあらゆるプロセスをゼロから再設計するための基盤とすることにあります。
実際に、同社のプログラミングコードの3分の1が既にAIによって書かれているという事実は、この変革が言葉だけでなく、実行段階にあることを示しています。
今回の動きで特に注目すべきは、GlassdoorのCEOだけでなく、IndeedのCHRO(最高人事責任者)までもが退任し、経営レベルでの刷新を伴っている点です。研究開発部門だけでなく、人事やサステナビリティといった組織運営の中核を担う部門にも変革のメスが入っていることは、AIによる事業再構築が全社的なものであることを強く印象付けます。
これは、求職者と企業のミスマッチを減らすという目的のため、テクノロジーを起点に組織文化そのものを作り変えようとする強い意志の表れと言えるでしょう。
しかし、このAI主導の変革には、光と影の両側面が存在します。ポジティブな側面は、AIが膨大なデータから最適な候補者と求人を結びつけ、採用プロセスを劇的に高速化・効率化することです。
これにより、人々は自分に合った仕事をより簡単に見つけられるようになるかもしれません。これは、テクノロジーによる人間の可能性の拡張と言えます。
一方で、潜在的なリスクも無視できません。AIによる選考が主流になれば、アルゴリズムのバイアスが、特定の属性を持つ人々を無意識のうちに排除してしまう危険性があります。また、採用という人生の重要な決断から「人の目」による判断が減っていくことへの懸念も生まれます。テクノロジーが進化するほど、私たちはそのプロセスが公正かつ透明であるかを、より一層厳しく問いかける必要が出てくるのです。
今回のニュースは、AI時代における企業の在り方、そして私たちの働き方がどう変わっていくのかを示す、重要な道しるべです。これは、リクルートという一社の話にとどまらず、MetaやMicrosoftといった他の巨大テック企業も同様に、AIへの投資を優先するために人員整理を行っている大きな潮流の一部です。
テクノロジーが雇用を創出するだけでなく、雇用そのものを定義し直す時代が、すぐそこまで来ています。この変化の本質を捉え、未来にどう備えるべきか、innovaTopiaは引き続き深く考察し、読者の皆さんと共に考えていきたいと思います。
【用語解説】
コングロマリット (Conglomerate)
本来の事業とは直接的な関係が薄い、多様な業種・事業を傘下に収めることで形成された巨大な複合企業体のことである。リクルートホールディングスは、HRテクノロジー事業を中心に、人材派遣やメディア事業など多角的な事業を展開している。
R&D (Research and Development)
研究開発のことである。新しい技術や製品、サービスを生み出すための基礎研究から、それらを実用化するための応用・開発研究まで、幅広い活動を指す。今回の人員削減では、米国のR&D部門が影響を受けると報じられている。
CHRO (Chief Human Resources Officer)
最高人事責任者のこと。企業の経営戦略の観点から人事部門を統括する最高責任者であり、人材採用、育成、組織開発、労務管理など、人事業務全般に責任を持つ。今回、IndeedのCHROが退任することが発表された。
【参考リンク】
株式会社リクルートホールディングス(外部)
IndeedとGlassdoorの親会社。HRテクノロジーとマーケティング等を中核事業としています。
Indeed (インディード)(外部)
世界最大級の求人検索エンジン。求職者は無料で求人検索や履歴書登録などができます。
Glassdoor (グラスドア)(外部)
企業の従業員が給与や企業文化について匿名で口コミを投稿するプラットフォームです。
【参考記事】
リクルートがAI導入に伴う組織再編…米IndeedとGlassdoorで1300人をレイオフ、その周辺で進む「退任」(外部)CEOの社内メールを基に、削減対象部門や経営陣の刷新について具体的に報じています。
Recruit Holdings, AI移行に伴いIndeedとGlassdoorの従業員1,300人を削減(外部)
人員削減がHRテクノロジー部門の約6%にあたることや、後任人事にも言及しています。
【編集部後記】
今回のニュースは、私たちのキャリアにとって決して他人事ではありません。
もしAIが、あなたに最適な仕事を提案してくれるとしたら。あなたなら、そのプロセスをどこまでAIに任せますか?人事のトップでさえ、この大きな変化の渦中にいます。人の感情や直感といった、数値化できない部分をどう扱うべきでしょう。
これは、私たち一人ひとりに投げかけられた、未来への問いです。ぜひ、あなたの考えも聞かせてください。
テクノロジーと経済ニュースをinnovaTopiaでもっと読む
AI(人工知能)ニュースをinnovaTopiaでもっと読む