半導体チップ製造に危機、銅不足で2050年に58%の生産が影響受ける可能性

半導体チップ製造に危機、銅不足で2050年に58%の生産が影響受ける可能性 - innovaTopia - (イノベトピア)

プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は2025年7月8日、気候変動による干ばつが半導体産業の銅供給に与えるリスクに関する報告書を発表した。

報告書によると、2035年までに世界の半導体生産の32%が気候変動による干ばつリスクにさらされる銅供給に依存することになる。温室効果ガス排出量が削減されない場合、このリスクは2050年までに58%に上昇する。

現在、半導体産業に銅を供給する17カ国のうち、深刻な干ばつリスクに直面しているのはチリのみである。しかし10年以内に、銅を供給する大部分の国の鉱山が深刻な干ばつリスクに直面する。

新しい銅鉱山の開発には平均16年を要する。S&Pグローバルは2022年の報告書で、世界の銅需要が2035年までに2500万メートルトンから5000万メートルトンに倍増すると予測している。

国際エネルギー機関(IEA)は、新たな供給源が開拓されなければ2035年までに銅供給が必要量の30%不足すると推定している。PwC韓国のグローバル半導体リーダーであるグレン・バーム氏は、企業がサプライチェーンのリスク管理を強化する必要があると述べた。

From: 文献リンクSemiconductor industry could short out as copper runs dry

【編集部解説】

今回のPwCレポートが示す銅供給リスクは、単なる資源問題を超えて、デジタル社会の根幹を揺るがす構造的課題として捉える必要があります。半導体産業における銅の役割を理解することから始めましょう。

銅は半導体チップ内部で数十億本の微細な配線として機能しており、現在の技術では代替が困難な材料です。チップの性能向上に伴い配線密度が増加するため、銅需要は今後も拡大し続けます。特に注目すべきは、AI処理に特化したチップでは従来以上に複雑な配線構造が求められることです。

気候変動による供給リスクの深刻度について、PwCの分析手法は興味深い視点を提供しています。同社は貿易データを用いて半導体メーカーの銅調達先を17カ国まで特定し、各鉱山の干ばつリスクを「20年間のうち20%以上の期間で深刻な干ばつに見舞われる確率」として定量化しました。

現在リスクが顕在化しているのはチリのみですが、10年以内に大部分の銅供給国が同様のリスクに直面する見込みです。チリは世界最大の銅産出国であり、同国の供給不安は世界的な影響を与える可能性があります。

需給ギャップの拡大も深刻な問題です。S&Pグローバルの2022年レポートによると、世界の銅需要は2035年までに2500万メートルトンから5000万メートルトンに倍増する見通しです。一方で、現在の鉱山開発プロジェクトでは2035年時点で30%の供給不足が予想されています。

この需給逼迫の背景には、鉱石品位の継続的な低下があります。同じ量の銅を採掘するためにより多くの水と電力が必要になっており、気候変動による水不足がさらに問題を深刻化させています。新規鉱山の発見も減少傾向にあり、長期的な供給確保が困難になっています。

半導体産業への波及効果を考えると、過去のチップ不足が示した経済的インパクトは参考になります。パンデミック時の半導体不足では、米国のGDP成長率が1ポイント、ドイツが2.4ポイント押し下げられました。銅供給制約による半導体不足は、より長期的かつ構造的な影響をもたらす可能性があります。

対策の方向性として、鉱山会社は海水淡水化プラントへの投資や水の循環利用システムの導入を進めています。チリやペルーではこうした取り組みが先行していますが、内陸国では海水淡水化が利用できないという地理的制約があります。

半導体メーカー側では、代替材料の研究開発が活発化していますが、銅の価格対性能比を上回る材料は現時点で存在しません。そのため、サプライヤーの多様化や循環経済の活用が現実的な選択肢となっています。

興味深いのは、通信業界の光ファイバー化が銅リサイクルの新たな供給源を生み出していることです。今後10年間で80万トンの銅ケーブルが回収可能とされ、その価値は70億ドルに達する見込みです。

長期的な視点では、この問題は単なる資源制約を超えて、地政学的なサプライチェーン再編を促進する可能性があります。IEAのファティ・ビロル事務局長が提案するように、先進国による精製能力の拡充と発展途上国との戦略的パートナーシップが重要になるでしょう。

最終的に、この銅供給リスクはデジタル変革の持続可能性そのものを問う課題として位置づけられます。AI、量子コンピューティング、再生可能エネルギーといった次世代技術の発展が、皮肉にもその基盤となる資源の制約によって制限される可能性を示しているのです。

【用語解説】

海水淡水化プラント
海水から塩分を除去して淡水を製造する施設。銅鉱山では水不足対策として導入が進んでいる。

循環経済
従来の「作る・使う・捨てる」の線形経済に対し、資源を循環利用する経済システム。銅のリサイクルや再利用を促進する。

鉱石品位
鉱石に含まれる有用金属の含有率。品位が低下すると同じ量の金属を採掘するためにより多くの鉱石処理が必要になる。

相互接続(インターコネクト)
半導体チップ内部で回路同士を接続する微細な配線。銅の優れた電気伝導性により実現されている。

グレン・バーム
PwC韓国のグローバル半導体リーダー。半導体産業のサプライチェーンリスク分析を専門とする。

【参考リンク】

PricewaterhouseCoopers(PwC)(外部)
世界4大会計事務所の一つ。監査、税務、コンサルティングサービスを提供する多国籍企業。

国際エネルギー機関(IEA)(外部)
パリに本部を置く国際機関。エネルギー政策の調整、エネルギー安全保障の確保を目的とする。

S&P Global(外部)
金融情報サービス会社。格付け、市場分析、商品インサイトを提供し、銅需要予測レポートを発表。

The Register(外部)
英国のテクノロジー専門ニュースサイト。IT業界の最新動向、企業分析、技術解説を提供。

【参考記事】

World copper deficit could hit record; demand seen doubling by 2035(外部)
S&P Globalの包括的な銅市場レポート。2035年の銅需要が2倍になり、最大990万トンの供給不足が発生する可能性を予測。

One-third (32%) of projected US$1 trillion semiconductor supply chain at risk from climate disruption by 2035(外部)
PwCの公式プレスリリース。2035年までに世界の半導体生産の32%が気候変動による銅供給リスクに直面し、2050年には58%に上昇するという予測を発表。

Semiconductor industry could short out as copper runs dry(外部)
The Register記事。Dan Robinson記者による詳細な分析で、新規鉱山開発に平均16年を要することや通信業界の銅リサイクルの可能性について報告。

【編集部後記】

この銅供給リスクの話を読んで、皆さんはどう感じられましたか?私たちが当たり前に使っているスマートフォンやパソコンの裏側で、こんな資源の綱渡りが起きているなんて、正直驚きました。

もしかすると、皆さんの会社でも半導体不足の影響を実感された方がいらっしゃるかもしれませんね。今度はその根本にある銅という素材レベルでの課題です。

私たちinnovaTopiaとしては、こうした「見えないリスク」にもっと光を当てていきたいと思っています。皆さんは、テクノロジーの進歩と資源制約のバランスについて、どんな解決策があると思われますか?また、企業や個人レベルでできることがあるとすれば、何でしょうか?

ぜひSNSで、皆さんの率直なご意見をお聞かせください。一緒に未来を考えていければと思います。

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TaTsu
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