シャオミ10年間278億ドル投資で挑むApple・テスラ包囲戦略

[更新]2025年5月23日11:20

 - innovaTopia - (イノベトピア)

中国の技術大手シャオミは2025年5月22日、今後5年間で200億元(約278億ドル)をコア技術の研究開発に投資すると発表した。この発表は北京で開催されたイベントにおいて、創業者兼CEOの雷軍(Lei Jun)氏により行われ、同時に10年間の開発期間を経た自社開発チップ「XRing O1」と電動SUV「YU7」が正式発表された。

チップ開発投資だけでも今後10年間で500億元(69億ドル)を投じる計画で、XRing O1の開発には既に135億元(約19億ドル)が投入されている。さらに同社は2021年から2025年までの5年間でコア技術R&Dに1050億元(約145億ドル)を投資しており、2025年単年だけで300億元(42億ドル)を研究開発に配分する予定である。

技術的な成果として、XRing O1チップはTSMCの第2世代3ナノメートルプロセス(N3E)で製造され、190億個のトランジスタを搭載、ダイサイズは109平方ミリメートルを実現した。特定のベンチマークテストでAppleのA18 Proチップを上回る性能を示し、シングルコア・マルチコアテストでは同等の性能を記録している。YU7電動SUVは最大835キロメートルの航続距離を実現し、テスラModel Yの719キロメートルを大幅に上回る性能を誇る。

この戦略の背景には、2017年のSurge S1以来7年ぶりとなる自社フラッグシップチップ開発と、2500人規模の開発チーム構築がある。米中貿易摩擦下での技術自立を目指すシャオミの野心的な取り組みである。

References:
文献リンクChina’s Xiaomi to invest almost $28 billion in core technology R&D over next five years | Reuters
文献リンクXiaomi flexes chip prowess as new XRing O1 bests Apple’s A18 Pro in certain tests | SCMP
文献リンクChina’s Xiaomi commits $6.9 billion to in-house chips | CNBC
文献リンクTesla Model Y compared to ‘Tesla killer’ Xiaomi YU7 | Electrek
文献リンクXiaomi’s XRING 01 Goes Official As Company’s First Custom 3nm SoC | WCCFtech

【編集部解説】

シャオミの今回の発表は、中国のテクノロジー企業が「ただの製造業者」から「技術革新のリーダー」へと変貌を遂げる象徴的な出来事です。278億ドルという5年間の投資額に加え、チップ開発だけで10年間69億ドルを投じる計画は、単一企業の研究開発費としては極めて大規模で、例えるならAppleが年間に投じるR&D予算(約300億ドル)の半分に相当する規模を毎年継続することになります。

シャオミの技術実績と今後の研究課題

シャオミのチップ開発は実は10年間という長期的な取り組みの成果です。2017年のSurge S1から始まり、2018年のSurge S2は市場投入が中止されるなど「様々な困難と挫折」を経験しましたが、2021年に自動車事業を決定した際に同時に本格的なフラッグシップチップ開発を再開しました。

現在のXRing O1開発には2500人規模のチームが投入され、元クアルコム上級ディレクターが責任者として雷軍CEOに直接報告する体制が構築されています。TSMCの第2世代3nmプロセス(N3E)を使用し、190億個のトランジスタをわずか109平方ミリメートルのダイサイズに集積するという技術的偉業を達成しました。

技術面での課題も残存します。雷軍CEO自身が「特定の領域でAppleのソリューションに劣る」と認めているように、完全な技術的優位性には時間を要します。しかし、GeekBench 6でシングルコア3119点、マルチコア9673点を記録し、Snapdragon 8 Eliteと同等レベルに到達していることは、7年間のブランクを経ての見事な復活と言えるでしょう。

XRing O1がApple A18 Proを上回る点

XRing O1チップの技術的特徴は以下の通りです:

独創的なアーキテクチャ設計: 従来の8コアではなく10コア設計を採用。2つのCortex-X925プライムコア(3.9GHz)、6つのCortex-A725パフォーマンスコア、2つのCortex-A520効率コアという独特な2+6+2構成により、持続的なパフォーマンスと電力効率のバランスを追求しています。

ベンチマーク性能での健闘: シャオミが発表したデータによると、XRing O1はシングルコアとマルチコアテストでAppleのA18 Proと同等の性能を示し、「その他のベンチマークテストで大幅に上回る」結果を記録しました。AnTuTuテストでは300万点を超え、Snapdragon 8 Eliteを上回る性能を実証しています。

最先端製造技術の活用: TSMCの第2世代3nmプロセス(N3E)はAppleのA18 Proと同じ製造技術で、中国企業として初めてこのレベルの先端プロセスを活用したフラッグシップチップを実現しました。これは米国の輸出規制下での技術的成果として特に注目されます。

システム統合技術: LPDDR5T RAM、UFS 4.1ストレージ、Wi-Fi 7、USB 3.2 Gen 2など最新技術標準をサポートし、カスタム3コアXiaomi ISPも統合しています。

電動SUV YU7の優れている点

YU7は「テスラキラー」と呼ばれるに相応しい総合性能を備えています:

物理的優位性: YU7は全長4,999mm、全幅1,996mm、全高1,600mm、ホイールベース3,000mmで、テスラModel Y(全長4,797mm、全幅1,920mm、全高1,624mm、ホイールベース2,890mm)を全ての寸法で上回ります。202mmも長い全長と110mm長いホイールベースは、特に中国市場のファミリー層に響く設計です。

航続距離での圧勝: YU7の最大835キロメートルという航続距離は、テスラModel Y Long Range AWDの719キロメートルを116km上回ります。CLTC基準とはいえ、中国市場ではこの数値が購買決定に大きく影響します。

パフォーマンスの際立ち: 最大690PS、0-100km/h加速3.23秒、最高速度253km/hという性能は、Model Yを凌駕する数値です。デュアルモーター構成(前220kW、後288kW)で合計508kWの出力を実現しています。

テクノロジー統合の優位性: YU7の「HyperVision」パノラマディスプレイとAndroidベースのHyperOSによるスマートフォン統合は、西欧メーカーが中国で実現できていないレベルのデジタル体験を提供します。

この技術革新により、シャオミは「価格重視の中国ブランド」から「技術で勝負するグローバル企業」への転身を図っています。フォードCEOジム・ファーリー氏がシャオミSU7を「6ヶ月間運転して手放したくない」と語った事例は、中国テック企業の技術力が欧米企業にとって脅威となるレベルに達していることを象徴しています。

ただし、技術的成功が市場成功を保証するわけではありません。3月末のSU7自動運転モード事故や誇大広告の指摘など、ブランド信頼性の構築は継続的な課題です。また、国際展開においては規制対応、サプライチェーン管理、現地パートナーシップなど、技術以外の要素も重要になるでしょう。

【用語解説】

XRing O1
シャオミが10年間の開発期間と135億元の投資を経て完成させた自社フラッグシップSoC。TSMCの第2世代3nmプロセス(N3E)で製造され、190億個のトランジスタを109平方ミリメートルに集積。10コアCPU、16コアGPU、6コアNPUを統合し、AppleのA18 Proに匹敵する性能を実現。

YU7
シャオミの第2世代電動SUV。全長5m弱の大型ボディに690PS、0-100km/h加速3.23秒の高性能と最大835kmの航続距離を両立。「HyperVision」パノラマディスプレイとHyperOSでスマートフォンとシームレス連携するテスラModel Y直接対抗車種。

TSMCの第2世代3nmプロセス(N3E)
台湾積体電路製造の最先端半導体製造技術。トランジスタ間隔が3ナノメートル級でAppleのA18 Proと同じ製造プロセス。より多くの回路を小さなチップに集積可能で、高性能と電力効率を両立。

CLTC(China Light-duty vehicle Test Cycle)
中国軽型車試験サイクル。中国独自の電動車航続距離測定基準で、実際の使用条件より楽観的な数値が出やすいとされるが、中国市場では公式指標として重要。

SoC(System on Chip)
システムオンチップ。CPU、GPU、メモリコントローラー、通信チップなど複数の機能を1つのチップに統合した半導体。スマートフォンの心臓部で、性能・電力効率・サイズすべてを決定する重要コンポーネント。

【参考リンク】

シャオミ公式サイト(外部)
XRing O1チップとYU7 SUVを発表した中国発グローバルテクノロジー企業。スマートフォン、IoT製品、電動車の最新情報と製品詳細を提供。

Reuters Technology(外部)
シャオミの278億ドル投資発表とXRing O1量産開始に関する最新報道。世界的通信社による信頼性の高い技術ニュースを配信。

South China Morning Post – Tech(外部)
XRing O1とApple A18 Proの詳細性能比較分析と技術仕様レポート。アジア最大手英字紙による中国テック企業の深掘り報道。

CNBC Technology(外部)
シャオミの69億ドルチップ投資計画とクアルコムCEOコメント詳報。米大手ビジネスメディアによる技術・投資分析記事。

台湾積体電路製造(TSMC)(外部)
XRing O1の第2世代3nmプロセス製造を担当する世界最大半導体ファウンドリ。最新の半導体製造技術と業界動向情報を提供。

Electrek(外部)
YU7とテスラModel Yの技術仕様・性能比較専門分析記事。電動車とクリーンエネルギー分野の権威的専門メディア。

WCCFtech(外部)
XRing O1の技術詳細と19億トランジスタ仕様に関する深掘り報道。コンピュータハードウェアとテクノロジー専門ニュースサイト。

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まお
おしゃべり好きなライターです。趣味は知識をためること。

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