2025年、アメリカでZiplocとRubbermaidが集団訴訟に直面している。カリフォルニア州在住のLinda Cheslow氏がSC Johnson(Ziploc製造元)を、別の原告らがNewell Brands(Rubbermaid製造元)を提訴した。
両社の製品は「電子レンジ対応」「冷凍庫対応」と表示されているが、実際にはポリエチレンとポリプロピレン製で、極端な温度でマイクロプラスチックを食品に放出するとされている。訴状では、この表示が消費者に「誤解を招いている」と主張されている。
SC Johnson広報担当者は「説明書に従って使用する限り安全であり、訴訟には根拠がない」と反論している。マイクロプラスチックの摂取量は推定で年間39,000から52,000個、空気中の粒子を含めると120,000個に達するとされている。血管内のマイクロプラスチックは心臓発作や脳卒中のリスク増加との関連が指摘されている。
From: Ziploc, Rubbermaid Sued Over Microplastics: Should You Ditch Plastic Food Containers?
【編集部解説】
前回報道からの展開と今回の集団訴訟の特異性
innovaTopiaでは7月12日に「電子レンジ対応表示は嘘?テイクアウト容器から有害物質」という記事を配信し、テイクアウト容器全般からのマイクロプラスチック放出問題を警告していました。今回の集団訴訟は、その問題がついに法的段階に発展したことを示しています。
前回の記事では、マイアミのLoews Coral GablesのRicardo Jarquinシェフや、フロリダ州セントピーターズバーグのBrick & MortarオーナーHope Montgomeryといった食品業界の専門家が、耐熱表示のない容器の使用を避けるよう助言していました。しかし今回の訴訟は、表示があっても実際には安全でない可能性を法的に争うものとなっています。
集団訴訟の法的戦略と企業の対応
SC Johnson社が「説明書に従って使用する限り安全」と主張している点は、従来の製品責任論における「適切な使用」概念を盾にした防御戦略です。しかし、一般消費者が「電子レンジ対応」という表示を見て期待する安全性と、実際の科学的リスクとの間のギャップが今回の争点となっています。
Circulate HealthのBrad Younggren氏が指摘する「極端な温度への繰り返し曝露がプラスチック材料にストレスを与え、表面層の分解を促進させる現象」は、前回記事で触れた「加熱時にプラスチック容器は食品に化学物質を浸出させる」メカニズムと完全に一致しています。
マイクロプラスチック問題の科学的エビデンスの蓄積
前回の記事配信時点では、マイクロプラスチックの健康影響について「不妊症やがんなどの医学的問題との関連が指摘されている」レベルでしたが、現在ではより具体的な健康リスクが明らかになっています。
血管内のマイクロプラスチックが心臓発作や脳卒中のリスク増加と関連することが研究で示されており、組織炎症や細胞死を引き起こす可能性も指摘されています。これらの科学的エビデンスの蓄積が、今回の集団訴訟の根拠を強化していると考えられます。
技術的解決策の現実化と市場動向
前回記事で推奨されていた「ガラス製容器(Pyrex等)やステンレススチール、セラミック製品」は、今回の訴訟を受けてより現実的な代替手段として注目されています。Younggren氏が推奨する「電子レンジ対応のガラス容器」は、温度ストレスに対する安定性が高く、マイクロプラスチック汚染のリスクがほぼゼロです。
生分解性プラスチックや植物由来材料の研究開発も加速しており、前回記事で触れた「生分解性素材や紙ベースの容器の開発」が実用化段階に近づいています。
規制環境の変化と業界への影響
前回記事では「FDA(米国食品医薬品局)が『電子レンジ対応』という特定の表示を個別に承認する制度は存在しない」と指摘していましたが、今回の訴訟はまさにこの規制の空白を突いたものです。
現行のFDA基準では、「電子レンジ対応」表示に対する統一的な承認制度が存在せず、メーカーの自主判断に委ねられています。この自主判断システムの限界が露呈される中、より厳格な第三者認証システムの必要性が浮き彫りになっています。
消費者行動の変化と長期的影響
前回記事で触れた「小さい子供を持つ家庭では健康への影響を懸念して、プラスチック製品の使用を控える傾向」は、今回の訴訟によってさらに加速する可能性があります。
Reddit上でのマイクロプラスチック曝露への懸念が高まっているという事実は、デジタルネイティブ世代を中心とした消費者意識の変化を示しています。これは、従来の利便性重視から安全性重視への価値観の転換を示しており、食品包装業界全体のビジネスモデル見直しを促進しています。
【用語解説】
マイクロプラスチック
直径5ミリメートル以下の微小なプラスチック片。環境中に広く存在し、食品や水を通じて人体に摂取される可能性がある。
ポリエチレン
プラスチックの一種で食品包装や容器に広く使用される材料。熱や冷凍の繰り返しで劣化しやすく、マイクロプラスチックを放出することがある。
ポリプロピレン
耐熱性と耐寒性を持つプラスチック材料。食品容器に広く利用されているが、極端な温度で構造劣化を起こしマイクロプラスチックを放出する可能性がある。
血液脳関門
血液中の物質が脳内に侵入することを防ぐ生体防御機構。マイクロプラスチックはこの関門を通過する能力を持つとされている。
Linda Cheslow
カリフォルニア州在住でSC Johnson社に対してZiplocのマイクロプラスチック問題で集団訴訟を提起した原告。
【参考リンク】
Ziploc(外部)
食品保存用のジップ付きプラスチック袋や容器を提供するブランド。50年以上にわたり家庭で広く使用されている。
Rubbermaid – Newell Brands(外部)
家庭用の収納、整理、清掃製品を展開するブランド。高品質な革新的ソリューションの開発を目指している。
SC Johnson(外部)
Ziplocブランドを所有する企業で、家庭用品メーカー。レイドやグレードなどの自社ブランドを展開している。
【参考記事】
マイクロプラスチックを放出?アメリカで「ジップロック」に集団訴訟(外部)
カリフォルニア州のLinda Cheslow氏によるSC Johnson社への集団訴訟について詳細に報告。
「マイクロプラスチックを放出している」ジップロックに対し(外部)
アメリカでのZiplocに対する集団訴訟について、企業側の主張とマイクロプラスチック問題の背景を解説。
【編集部後記】
今回のZiplocとRubbermaidの集団訴訟は、私たちの日常生活に潜む見えないリスクを浮き彫りにしました。「電子レンジ対応」という表示を信頼してきた多くの消費者にとって、この問題は単なる製品選択の問題を超えて、企業と消費者の信頼関係の根本的な見直しを迫るものです。
特に印象的だったのは、Brad Younggren氏の「冬の凍結温度が舗装にひび割れを起こすのと似ている」という比喩です。身近な現象を使ってマイクロプラスチック放出のメカニズムを説明したこの表現は、複雑な科学的現象を一般の人々に理解しやすくする優れた例といえます。
皆様のご家庭では、どのような食品保存・再加熱の工夫をされていますか?また、企業の表示責任についてどのようにお考えでしょうか?ぜひSNSでご意見をお聞かせください。
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