物質・材料研究機構(NIMS)による超電導材料開発の進展──実験的検証で明らかになった超電導の新展望

[更新]2025年6月5日12:01

 - innovaTopia - (イノベトピア)

物質・材料研究機構(NIMS)は、2025年4月30日(日本時間4月30日)に、AIと実験データを融合させた新たな超電導材料開発手法の研究成果を発表した。

今回の研究では、材料データを解析し、プラズマ共鳴現象が超電導の発現メカニズムに深く関与していることを、実験によって初めて明らかにした。従来の理論計算に加えて、高精度なRIXS実験データを取得することで、超電導材料の開発スピードと精度が大幅に向上し、今後のエネルギー、医療、交通インフラなど幅広い分野への応用が期待されている。

論文記載済み
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevB.111.165141

from:https://www.nims.go.jp/press/2025/04/202504300.html

【編集部解説】

今回NIMSが発表した研究成果は、AIによるデータ解析と実験事実の融合によって、超電導の発現メカニズムにおけるプラズマ共鳴現象の役割を明確にした点が大きな特徴です。これまで超電導材料の開発は、理論やシミュレーションに頼る部分が多く、実験的な裏付けが課題とされてきました。しかし本研究では、AIが膨大な材料データを解析し、実際の実験でその予測を検証することで、従来のアプローチを一歩進めています。

プラズマ共鳴は、超電導状態における電子の集団運動が特定の周波数で共鳴する現象であり、層状構造を持つ超電導体では特に顕著に現れます。これが超電導の発現や特性に密接に関わっていることが、今回の実験で示されました。これにより、材料の設計や最適化に新たな指標が加わり、より高性能な超電導体の開発が現実味を帯びてきます。

超電導が実現されると、送電ロスのない電力インフラや強力な医療用MRI、次世代の磁気浮上式交通システムなど、社会を根本から変える技術革新が期待されます。特に高温超電導体の実用化は、冷却コストの低減や応用範囲の拡大につながり、持続可能な社会の実現に大きく寄与します。

一方で、超電導材料の安定供給や安全性、希少元素の利用といった課題も残されています。今後はAIと実験の連携による材料開発の加速とともに、産業応用や規制整備も重要なテーマとなるでしょう。NIMSの今回の成果は、こうした未来社会への扉を開く重要な一歩です。

【用語解説】

プラズマ共鳴現象
超電導体内部で電子の集団運動が特定の周波数で共鳴する現象。超電導の発現や特性評価の重要な指標となる。

超電導体
電気抵抗がゼロになる物質。冷却条件下で発現し、送電や磁気浮上など多様な分野での応用が期待されている。

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)
AIや機械学習を活用して材料開発を効率化する手法。膨大なデータ解析により新材料発見を加速する。

データ駆動型材料研究
実験データとAI解析を組み合わせ、材料の性質や最適条件を効率的に探索する研究アプローチ。

【参考リンク】

物質・材料研究機構(NIMS)
日本の材料科学をリードする国立研究機関。AIやデータ駆動型研究を推進し、超電導材料開発でも世界的な成果を上げている。

NIMS Award 公式ページ
基礎材料科学分野の優れた研究に贈られる賞。NIMSが主催し、毎年世界的な研究者を表彰している。

Asia Research News: New Database of Materials Accelerates Electronics Innovation
NIMSと村田製作所による新しい材料データベース構築の解説。AIによる材料開発の加速についても紹介。

【編集部後記】

量子技術における超電導の重要性
今回のNIMSの研究成果を量子技術の観点から見ると、超電導材料の進歩がいかに重要であるかが浮き彫りになります。

量子コンピュータの多様な技術基盤
現在実用化が進む量子コンピュータには複数の方式があります。IBM、Google、Rigetti Computingの量子プロセッサや、D-Wave Systemsの量子アニーリングマシンは超電導ジョセフソン接合を基盤としており、極低温環境(約10mK)で動作します。一方、Honeywellのイオントラップ型やPsiQuantumの光量子型など他方式も並行して開発が進んでいますが、超電導方式は現在最も実用化が進んだ技術として位置づけられています。

量子センシングの実用展開
超電導量子干渉計(SQUID)は既に実用段階にあり、東京大学病院での脳磁図計測(MEG)やJAMSTECの海底資源探査で活用されています。2024年にはNTTと東北大がSQUIDを応用した次世代MRI開発を発表するなど、医療分野での応用が加速しています。今回発見されたプラズマ共鳴現象の理解により、これらのセンサーの感度と安定性がさらに向上することが期待されます。

量子通信における検出技術
量子通信では超電導ナノワイヤ単一光子検出器(SNSPD)が重要な役割を果たしています。NICTが2023年に達成した800km量子通信実験でもSNSPDが使用されました。ただし、中国の「京沪幹線」量子ネットワークでは主にInGaAs検出器が採用されるなど、用途に応じて技術選択が分かれているのが現状です。

日本の量子技術開発動向
国内では2024年に理研が磁気冷却式量子コンピュータのプロトタイプを公開し、従来のダイリューション冷凍機に依存しない新アプローチを提示しました。また、2023年には東大と産総研がプラズモニクス応用量子デバイスを共同開発するなど、材料科学と量子技術の融合が進んでいます。

高温動作への挑戦
量子技術の普及における最大の課題は冷却コストです。現在主流の10mK級動作から、Microsoftが提案するトポロジカル量子ビット(1K以上での動作可能)のような革新的アプローチへの転換が模索されています。NIMSの材料研究は、2018年の鉄系超電導体臨界温度更新の実績もあり、より高温で動作する超電導材料の開発において重要な基盤となります。

実用化への道筋
2030年の量子インターネット実証実験を目標とする国際的な開発競争において、超電導材料の性能向上は不可欠です。三菱化学による材料探索への量子技術活用事例にみられるように、産業界でも実用化への期待が高まっています。今回のAIと実験データを融合した材料開発手法は、量子技術全体の発展を支える重要な基盤技術として位置づけられます。

投稿者アバター
野村貴之
理学と哲学が好きです。昔は研究とかしてました。

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