マドリッド自治大学の研究チームは、IBMの量子コンピュータを使って、宇宙初期に起きた粒子の誕生をシミュレーションすることに成功しました。
研究チームは、IBMの127量子ビット「Eagle」プロセッサを使用し、以下を実現しました:
- 4量子ビットで宇宙空間の一部を再現
- 宇宙の膨張に伴う時空の変化を計算
- 約300回の量子操作で粒子が生まれる過程を表現
- 量子コンピュータ特有のノイズ(誤差)を低減
この成果は2025年1月28日にScientific Reports誌に掲載され、宇宙物理学の研究に量子コンピュータを活用した初めての例となりました。
from:https://www.nature.com/articles/s41598-025-87015-6
【編集部解説】
宇宙が誕生した直後、急激な膨張(インフレーション)が起きたと考えられています。この膨張により、「無」から物質が生まれた可能性が指摘されていますが、この現象を地上で再現することは不可能でした。
今回の研究では、量子コンピュータを使って、この「無から物質が生まれる瞬間」をシミュレーションすることに成功しました。
現在の量子コンピュータには、計算の途中でエラーが発生しやすいという課題があります。研究チームは特殊な技術を使ってこのエラーを抑え、理論どおりの結果を得ることができました。
この研究の意義は2つあります:
- 宇宙誕生の謎に迫る新しい研究手法を確立したこと
- 量子コンピュータが宇宙物理学の研究に使えることを実証したこと
今後、量子コンピュータの性能が向上すれば、ブラックホールの研究など、これまで観測が困難だった宇宙現象の解明にも役立つと期待されています。
【用語解説】
量子コンピュータ
量子の特殊な性質を利用して計算を行うコンピュータです。特定の計算では、通常のコンピュータよりも圧倒的に高速な処理が可能です。
量子ビット
量子コンピュータの性能を表す単位です。ビット数が多いほど、複雑な計算が可能になります。
インフレーション理論
宇宙誕生直後に、宇宙が急激に膨張したとする理論です。この理論は、現在の宇宙の様々な特徴を説明できます。