空飛ぶ車が現実となる瞬間—能登半島で刻まれる新たな歴史
「空飛ぶ車」と聞いて、どんな映像が頭に浮かぶでしょうか。SF映画の未来都市を颯爽と駆け抜ける乗り物でしょうか。それとも、渋滞知らずの通勤手段でしょうか。しかし、2025年8月13日、石川県珠洲市で行われるeVTOL「EH216L」の日本初試験飛行が示すのは、もっと現実的で、そして遥かに意義深い「空飛ぶ車」の姿です。
厳密に言えば、EH216Lは私たちが想像する「空飛ぶ車」とは異なります。これは物資輸送専用のeVTOL(Electric Vertical Take-off and Landing:電動垂直離着陸機)で、人を乗せて空を駆けるのではなく、最大250kgの荷物を運ぶことに特化した航空機です。しかし、道路のない空を自在に移動し、垂直に離着陸する姿は、まさに私たちが夢見た「空飛ぶ車」の原型と言えるでしょう。
この試験が特別なのは、単なる技術実証ではなく、能登半島地震の被災地復興支援という明確な社会的使命を背負っている点です。2024年1月1日の地震から1年7ヶ月が経過した今も、道路インフラの制約により物資輸送が困難な地域が残されています。そこにeVTOLが持つ「既存インフラに依存しない輸送能力」が光る——これこそが、新技術への純粋なワクワクと、現実の課題解決への強い意志が融合した瞬間なのです。
最大飛行距離35km、飛行時間21分という性能は、緊急医薬品の配送や孤立地域への救援物資輸送において、従来のヘリコプターでは実現困難なコスト効率を可能にします。まさに「空飛ぶ車」が、私たちの生活を根本から変える第一歩がここから始まろうとしているのです。

【概要】
一般社団法人MASC(岡山県倉敷市、理事長:井上峰一)が主催し、一般社団法人SKy Mobility JAPAN(石川県珠洲市、代表理事:浦達也)と一般社団法人日本ドローンビジネスサポート協会(岡山市、代表理事:森本宏治)が協力して、2025年8月13日に石川県珠洲市で中国EHang社製のeVTOL「EH216L」の日本初試験飛行を実施する。
EH216Lは物資輸送専用のeVTOLで、最大積載量250kg、最大飛行時間21分、最大飛行距離35km、最大速度130km/hの性能を持つ。機体サイズは5710mm×5716mm×2179mmである。
試験は2024年に発生した能登半島地震の被災地復興支援と次世代モビリティ実用化を目的とする。会場は珠洲市三崎町寺家の「ランプの宿」駐車場で、午前7時から8時まで実施される。日本の気象条件下での飛行性能確認、離着陸操作の安全性検証、災害対応への活用可能性検証を行う。
From:
「空飛ぶ車」EH216Lデモフライト – Sky Mobility JAPAN
【編集部解説】
今回のニュースで注目すべきは、災害復旧と次世代モビリティの実用化を同時に進めるという革新的なアプローチです。2024年1月1日に発生した能登半島地震(M7.6、最大震度7)から1年7ヶ月が経過し、日本の災害対応技術が新たな段階に入ろうとしています。
EH216Lは中国EHang社が開発した物資輸送専用のeVTOLで、旅客輸送モデルのEH216-Sとは明確に区別されています。
このテストが画期的な理由は、単なる技術実証ではなく、実際の災害復旧現場での運用検証だという点です。能登半島地震の被災地では、道路やインフラの破損により従来の物資輸送が困難な状況が続いています。eVTOLは既存の交通インフラに依存しない輸送手段として、特に過疎地域や被災地での物資配送において大きな可能性を秘めています。
最大飛行距離35km、飛行時間21分という性能は、緊急時の医薬品配送や孤立地域への救援物資輸送には十分な能力です。従来のヘリコプターと比較して運用コストが大幅に削減できる点も、継続的な災害支援において重要な要素となります。
一方で、日本の厳格な航空法規制下での運用には課題も残ります。現在の国土交通省の規制では、eVTOLの商用運用には詳細な安全認証が必要で、実用化まで数年を要する可能性があります。また、21分という飛行時間の制約や、悪天候時の運用制限も実用性の観点で検討すべき要素です。
今回の試験は、2025年大阪万博でのeVTOL実演や、日本政府が推進する「空の移動革命」政策の重要な前段階として位置づけられます。災害復旧という社会的意義と技術実証を組み合わせた取り組みは、eVTOL普及への社会的受容性を高める効果的な戦略といえるでしょう。
災害大国である日本において、このような新技術が実際の復旧現場で検証されることは、将来の大規模災害への備えとしても極めて重要な意味を持ちます。

【用語解説】
eVTOL(Electric Vertical Take-off and Landing)
電動垂直離着陸機の略称。バッテリーで駆動するプロペラやローターを用いて垂直離着陸が可能な航空機。従来のヘリコプターと異なり、複数のローターによる分散推進システムを採用し、騒音が少なく環境負荷が低い。
AAV(Autonomous Aerial Vehicle)
自律飛行航空機の略称。人間のパイロットによる操縦を必要とせず、事前にプログラムされたルートや指令に従って自動飛行する航空機。GPS、各種センサー、AI技術を組み合わせて安全な自律飛行を実現する。
MLIT(国土交通省)
Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourismの略称。日本の航空法や航空機認証を管轄する省庁で、eVTOLの試験飛行許可や将来の商用運用認可を担当する。
能登半島地震
2024年1月1日16時10分に石川県能登地方で発生したマグニチュード7.6、最大震度7の大地震。輪島市と志賀町で震度7を記録し、津波や火災、建物倒壊などの甚大な被害をもたらした。
コアキシャル設計
同軸反転プロペラ設計の意味。上下に重ねた2つのプロペラが逆方向に回転することで、トルクを相殺し安定した飛行を実現する設計方式。EH216Lの16個のプロペラは8対のコアキシャル構成となっている。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
災害復興の現場で次世代テクノロジーが実証される——これほど心を動かされるニュースがあるでしょうか。能登半島の被災地で行われるeVTOLの試験飛行は、単なる技術デモを超えた深い意味を持っています。
私たちは普段、最新技術の華やかな側面に注目しがちですが、今回のような「人々の役に立つ技術」の姿を目にすると、改めてイノベーションの本質を考えさせられます。みなさんは、技術の進歩と社会貢献が両立する瞬間に、どのような可能性を感じますか?この試験が成功した先に、どんな未来の風景を描いているでしょうか。