アメリカ唯一のレアアース企業MP Materials、国防総省との官民連携で株価50%急騰

アメリカ唯一のレアアース企業MP Materials、国防総省との官民連携で株価50%急騰 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年7月10日、アメリカ国防総省はカリフォルニア州マウンテンパス鉱山を運営するMP Materials社と変革的な官民パートナーシップを発表した。

国防総省は4億ドルの優先株投資とワラント(新株予約権)により同社の約15%を取得し最大株主となる。JPモルガン・チェースとゴールドマン・サックスが10億ドルの建設資金を提供し、レアアース磁石製造の「10X施設」を建設する。

同施設は2028年に稼働開始予定で、MP Materialsの年間磁石生産能力を現在の1,000メートルトンから10,000メートルトンに拡大する。

国防総省は10年間にわたって10X施設で生産される磁石の100%を購入することに合意し、ネオジム・プラセオジム酸化物に対して1キログラムあたり110ドルの価格下限を10年間保証する。

さらに重希土類分離能力拡張のため1億5000万ドルの追加融資も予定されている。この取引により株価は50.62%上昇し、新高値48.01ドルを記録した。

From: 文献リンクPentagon snaps up ownership stake in America’s only rare earths mine

【編集部解説】

今回の国防総省とMP Materials社の官民パートナーシップは、アメリカの経済安全保障政策における歴史的な転換点を示しています。この取引の核心は、中国が世界のレアアース供給の約70%、精製能力の85%を支配している現状からの脱却にあります。

特に注目すべきは、国防総省が4億ドルの優先株投資に加えて、1株30.03ドルでの新株予約権(ワラント)を10年間保有することです。これは単なる投資を超えた戦略的関与を意味し、MP Materials社を「国家チャンピオン」として位置づける明確な意図を示しています。

2028年稼働予定の10X施設は、アメリカの年間磁石需要の約20%に相当する10,000メートルトンの生産能力を持ちます。これは現在のMP Materials社のテキサス州施設(2026年稼働予定で年間1,000メートルトン)と合わせ、採掘から磁石製造まで完全に統合された国内サプライチェーンを構築することになります。

価格下限保証制度も革新的な仕組みです。ネオジム・プラセオジム酸化物の市場価格が1キログラムあたり110ドルを下回った場合、国防総省が四半期ごとに差額を現金で補償します。一方、110ドルを上回る利益の30%は国防総省が受け取る仕組みで、CEO James Litinsky氏は「納税者が大きな利益を得る」と述べています。

技術的な観点では、今回の1億5000万ドルの追加融資により、MP Materials社はマウンテンパス鉱山での重希土類分離能力を拡張します。ジスプロシウムやテルビウムといった重希土類は、防衛・航空宇宙グレードの高性能磁石には不可欠で、これまでほぼ全量を中国での精製に依存していました。

市場の反応も劇的でした。発表翌日の7月11日、MP Materials株は50.62%上昇し、新高値48.01ドルを記録しました。これは投資家がこの取引を単なる政府支援ではなく、長期的な競争優位性の確立として評価していることを示しています。

しかし、この政策転換には課題も存在します。MP Materials社は長年、採掘したレアアースの一部を中国の盛和資源を通じて精製に回していましたが、現在この輸出は停止されています。同社は現在、濃縮物の約半分を分離製品に精製し、残りを備蓄している状況です。

長期的には、この取引はトランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策の具現化として、他の重要鉱物分野にも波及する可能性があります。内務長官Doug Burgum氏が4月に示唆したように、政府による重要鉱物生産者への株式投資は今後の政策トレンドとなるかもしれません。

【用語解説】

優先株(Preferred Stock)
普通株より配当や清算時の分配で優先権を持つ株式。今回の場合、国防総省が4億ドルで取得し、普通株への転換権も保有する。

ワラント(新株予約権)
特定の価格で株式を購入する権利。国防総省は1株30.03ドルで10年間MP Materials株を購入できる権利を保有する。

NdFeB磁石(ネオジム鉄ホウ素磁石)
ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする世界最強クラスの永久磁石。電気自動車のモーター、風力発電機、軍事機器に不可欠。

重希土類元素(Heavy Rare Earth Elements)
ジスプロシウム、テルビウムなど原子番号の大きいレアアース元素。軽希土類より希少で、高温環境での磁石性能維持に必要。

オフテイク契約(Offtake Agreement)
生産者と購入者が将来の生産物を事前に売買する長期契約。今回は10年間、10X施設の磁石100%を国防総省が購入保証。

バストネサイト鉱物
マウンテンパス鉱山で採掘される主要なレアアース鉱物。14億年前の炭酸塩岩に含まれ、軽希土類元素を豊富に含有。

【参考リンク】

MP Materials公式サイト(外部)
アメリカ唯一のレアアース採掘・処理企業。完全統合型サプライチェーンを構築している。

MP Materials投資家向けサイト(外部)
株価情報、財務諸表、今回の国防総省との官民パートナーシップ詳細資料を掲載。

アメリカ国防総省公式サイト(外部)
国防総省の政策、予算、重要鉱物の国内調達強化に関する戦略文書を提供。

【参考記事】

MP Materials社公式発表(外部)
4億ドル優先株投資、10X施設建設、10年間オフテイク契約の全詳細を網羅。

CNBCによる詳細分析(外部)
価格下限保証の仕組み、利益分配制度、株価への影響を投資家向けに解説。

ブルームバーグ市場分析(外部)
株価50%上昇の背景、JPモルガンとゴールドマン・サックスの融資詳細。

【編集部後記】

今回の国防総省とMP Materials社の取引を見ていて、私たちが普段使っているスマートフォンや電気自動車の「見えない部品」が、実は国家安全保障の最前線にあることを改めて実感しました。

特に興味深いのは、政府が単なる調達者ではなく「投資家」として民間企業に関与する新しいモデルです。価格下限保証と利益分配の仕組みは、リスクとリターンを官民で分担する革新的な手法といえるでしょう。

皆さんの業界では、このような政府の戦略的投資をどう捉えていらっしゃいますか?また、日本企業にとってこの動きはパートナーシップの機会なのか、それとも競争激化の前兆なのか。ぜひ皆さんの視点や体験をSNSで共有していただけると嬉しいです。

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TaTsu
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