2025年7月10日、ピート・ヘグセス米国防長官が「米軍ドローン優位性の解放」メモに署名した。
メモは米国製ドローンの軍事利用承認拡大、軍事戦闘部隊への低コストドローン配備、ドローン対ドローン戦争を含む訓練への組み込みを指示している。
Group 1(20ポンド以下)およびGroup 2(21-55ポンド)の小型ドローンを航空機から「消耗品」に再分類し、弾薬と同様の扱いとする。
2026年末までに全米軍分隊に使い捨て可能な低コストドローンを装備させ、特にインド太平洋軍を優先する。2025年9月1日までに陸軍・海軍・空軍・海兵隊に小型無人航空機システム実験部隊の設立を指示した。
Blue UASリストの管理権限が2026年1月1日にDefense Innovation UnitからDefense Contract Management Agencyに移管される。2027年末までに小型無人航空機システム領域での優位性確立を目標とし、現場指揮官の調達権限を拡大する画期的な政策転換である。
From: Hegseth signs flying memo to expand military use of cheap drones in oddball video
【編集部解説】
今回のヘグセス国防長官によるドローン政策転換は、単なる調達手続きの変更を超えた、米軍の戦略的思考の根本的な転換を意味しています。これまで米軍は高価で高性能な兵器システムに依存してきましたが、ウクライナ戦争の教訓から「安価で大量配備可能な兵器」の重要性を認識したのです。
この政策変更の背景には、ウクライナ戦争における戦場の現実があります。ヘグセス長官は「ドローンは一世代で最大の戦場革新であり、今年のウクライナでの死傷者の大部分を占めている」と述べており、従来の高価な兵器システムよりも、数千ドル程度の小型ドローンが戦場を支配している現実を米軍は目の当たりにしました。
技術的な革新点と実用性
今回の政策で特に注目すべきは、小型ドローンを「消耗品」として再分類した点です。これまでドローンは航空機と同様の扱いを受けていましたが、手榴弾や弾薬と同じカテゴリーに変更されました。この変更により、現場の指揮官が迅速に調達・配備できるようになり、官僚的な承認プロセスが大幅に短縮されます。
さらに、STANAG 4586(NATO標準規格)の適用除外も明確化されました。これは異なる軍隊間でのドローン制御リンクの相互運用性を確保する技術標準ですが、小型ドローンには適用しないことで、より柔軟な運用が可能になります。
産業界への影響と経済的インパクト
この政策転換は米国のドローン産業に大きな変革をもたらします。従来、軍事用ドローン市場は限られた大手企業が独占していましたが、今回の変更により中小企業や新興企業にも参入機会が広がります。
Unusual Machines社のCEOアラン・エバンス氏は「これが非常に速く進む可能性がある」と述べており、業界では大幅な需要増加が期待されています。Neros Technologies社は十分な国防総省からの注文があれば年間100万台の生産が可能だと表明しています。
国際的な競争力と安全保障への影響
米軍のこの動きは、中国、イラン、ロシアなどの競合国に対する技術的優位性確保の意図が明確です。ヘグセス長官は「我々の敵対者は集合的に毎年数百万の安価なドローンを生産している」と指摘し、この技術格差を埋める緊急性を強調しています。
2027年末までに「小型無人航空機システム領域での優位性確立」を目標に掲げており、これは長期的な技術覇権争いの一環として位置づけられています。
潜在的なリスクと課題
一方で、この急速な変化にはリスクも伴います。品質管理の問題、サイバーセキュリティの脆弱性、そして何より「安価な兵器の大量配備」が戦争の敷居を下げる可能性があります。また、現場での改造権限拡大は、予期しない技術的問題や安全性の懸念を生む可能性もあります。
長期的な戦略的意味
この政策変更は、米軍の戦略思考における根本的なパラダイムシフトを示しています。従来の「少数精鋭の高価な兵器」から「大量配備可能な安価な兵器」への転換は、今後の軍事技術開発の方向性を決定づける重要な転換点となるでしょう。
特に注目すべきは、2026年末までに全ての分隊に小型ドローンを配備するという具体的な目標設定です。これは単なる装備の追加ではなく、戦術レベルでの戦闘様式の根本的な変化を意味しており、今後の軍事訓練や作戦計画にも大きな影響を与えることになります。
【用語解説】
Group 1・Group 2ドローン
米軍の分類システムで、Group 1は重量20ポンド以下、高度1,200フィート以下、速度100ノット以下。Group 2は重量21-55ポンド、高度3,500フィート以下、速度250ノット以下の小型ドローン。
消耗品(Consumables)
従来は航空機として扱われていた小型ドローンを、弾薬や手榴弾と同じカテゴリーに再分類。これにより調達・運用手続きが大幅に簡素化される。
STANAG 4586
NATO標準規格の一つで、異なる軍隊間でのドローン制御リンクの相互運用性を確保するための技術標準。今回の政策で小型ドローンには適用除外となった。
Blue UASリスト
米軍が使用を承認した商用ドローンとコンポーネントの公式リスト。中国製など特定国製品を除外し、サイバーセキュリティ要件を満たした製品のみが掲載される。
Replicator計画
2023年8月に開始された国防総省の取り組み。2025年末までに数千の消耗可能なAI搭載自律システムを陸海空で配備することを目標とする。
【参考リンク】
Defense Innovation Unit(DIU)(外部)
米国防総省の技術革新部門。商用技術の軍事転用を促進し、Blue UASリストの管理を行っている。
Defense Contract Management Agency(DCMA)(外部)
国防契約管理庁。2026年1月からBlue UASリストの管理権限がDIUから移管される予定の組織。
ホワイトハウス – 大統領令「アメリカのドローン優位性の解放」(外部)
2025年6月6日にトランプ大統領が署名した、民間・軍事両分野でのドローン技術推進を目的とした大統領令。
米国防総省 – ヘグセス国防長官メモ(PDF)(外部)
「米軍ドローン優位性の解放」メモの公式PDF文書。今回の政策変更の詳細な内容が記載されている。
Unusual Machines Corporation(外部)
米国のドローン部品製造企業。今回の政策変更により需要急増が期待されると表明している企業の一つ。
【参考動画】
【参考記事】
Drones are now bullets: How a new Pentagon policy may accelerate robot warfare(外部)
小型ドローンを弾薬と同様の「消耗品」として再分類し、下級指揮官に調達・運用権限を移譲する画期的な政策変更を詳細に解説。
Pentagon Just Made A Massive, Long Overdue Shift To Arm Its Troops With Thousands Of Drones(外部)
Group 1・2ドローンの消耗品への再分類と、現場での改造権限付与について詳細に報告。ウクライナ戦争の教訓を反映した内容。
Hegseth calls for extensive reforms to Pentagon drone-buying practices(外部)
ペンタゴンのドローン調達慣行の大幅な改革内容と、2027年までの「UASドメイン優位性」確立目標について報告。
Pentagon Launches Sweeping Reform to Expand Small Drone Use in U.S. Military(外部)
下級指揮官の独立調達権限と、Blue UASリストの改革について詳細に解説。3Dプリンティングと迅速プロトタイピングへの言及も含む。
U.S. Defense Secretary Hegseth’s Directive Targets Drone Dominance(外部)
具体的な期限設定と実施計画について詳細に報告。各軍種に対する具体的な指示内容と、インド太平洋軍優先配備について解説。
【編集部後記】
今回のヘグセス国防長官の政策転換を見て、皆さんはどう感じられましたか?「安価で大量配備可能な兵器」への転換は、確かに軍事技術の民主化とも言える現象かもしれません。
私たちが日常的に使っているドローン技術が、これほど戦場を変えてしまう現実に、少し複雑な気持ちになりませんか?一方で、この技術革新は災害救助や物流、農業など平和利用の分野でも大きな可能性を秘めています。
皆さんの身の回りでも、ドローンがどのように活用されているか、ぜひ観察してみてください。そして、この技術が私たちの未来をどう変えていくのか、一緒に考えていけたらと思います。読者の皆さんのご意見や体験談もお聞かせいただけると嬉しいです。