2025年7月17日の木曜日、米下院は3つの暗号資産関連法案を可決した。
Digital Asset Market Clarity (CLARITY) Actは294対134で、Guiding and Establishing National Innovation for US Stablecoins (GENIUS) Actは308対122で、Anti-CBDC Surveillance State Actは219対210で可決された。
約80名の民主党議員がCLARITY法案に賛成票を投じ、100名以上がGENIUS法案に賛成票を投じた。
- CLARITY法案は暗号資産の市場構造を確立することを目的とし、規制区分を明確化する。
- GENIUS法案はステーブルコインの初期規制枠組みと消費者保護を定める。
- 反CBDC法案は米連邦準備制度理事会による中央銀行デジタル通貨発行を禁止する。
GENIUS法案は6月に上院を通過済みで、修正がないと仮定してトランプ大統領に送付される。トランプ大統領が金曜日までにGENIUS法案に署名予定と報じられている。民主党のマキシン・ウォーターズ議員は汚職や利益相反を理由に反対したが、業界団体は歓迎している。
From: US House passes three key crypto bills ahead of August recess
【編集部解説】
今回の米下院による暗号資産関連法案の可決は、単なる法案通過以上の重要な意味を持つ歴史的瞬間といえます。特に注目すべきは、これまで規制の「グレーゾーン」に置かれてきた暗号資産業界に対して、初めて包括的な法的枠組みを提供する試みである点です。
規制の明確化がもたらす技術革新への影響
CLARITY法案の最も重要な側面は、暗号資産の市場構造を確立し、監督機関を明確に区分することにあります。これまでSEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)の間で曖昧だった管轄権が整理され、ビットコインなどのデジタル商品はCFTCの監督下に、証券性を持つトークンはSECの管轄下に置かれることになります。
この明確化により、暗号資産企業は法的不確実性から解放され、より積極的な事業展開が可能になることが期待されます。約80名の民主党議員が賛成に回ったことは、この法案が党派を超えた支持を得ていることを示しており、業界にとって大きな追い風となるでしょう。
ステーブルコイン規制の二面性
GENIUS法案によるステーブルコイン規制は、デジタル決済の未来を左右する重要な要素です。100名以上の民主党議員が賛成したこの法案は、ステーブルコイン発行者に対して適切な準備金保有を義務付け、消費者保護を強化する一方で、イノベーションを阻害しない柔軟な枠組みを提供しようとしています。
しかし、この規制は諸刃の剣でもあります。適切な規制により信頼性が向上する一方で、過度な規制は新興企業の参入障壁を高め、イノベーションを抑制する可能性があります。特に、メタ(旧フェイスブック)のような巨大テック企業のステーブルコイン参入を再び可能にする側面もあり、市場の寡占化への懸念も存在します。
CBDC禁止法案の深層的意味
反CBDC監視国家法案は、表面的には中央銀行デジタル通貨の発行を禁止する法案ですが、その背景には米国の金融主権と個人のプライバシーに対する深刻な懸念があります。この法案の通過は、政府による金融監視への抵抗と、分散型金融システムへの支持を明確に示しています。
水曜日の投票では、一部の共和党議員が米国でのCBDC開発を禁止する除外条項(carve-out)を求めて抵抗し、数時間にわたって投票が停滞したことからも、この問題の複雑さが伺えます。
党派対立の構造的問題
今回の法案可決過程で最も象徴的だったのは、木曜日の投票前から継続的に反対を表明していたマキシン・ウォーターズ議員による「反暗号資産汚職週間」という対抗措置です。これは単なる政治的対立を超えて、暗号資産業界に対する根本的な価値観の違いを露呈しています。
ウォーターズ議員の指摘する「2008年金融危機の再来」への懸念は、規制緩和がもたらす潜在的リスクを浮き彫りにしています。一方で、共和党は暗号資産を経済成長とイノベーションの原動力として位置付けており、この対立は今後の規制議論の基調となるでしょう。
業界への実際的インパクト
これらの法案が実際に施行されれば、暗号資産企業は明確な規制環境の下で事業を展開できるようになります。特に、従来は規制の不確実性により米国市場への参入を躊躇していた国外企業にとって、大きな参入機会となる可能性があります。
ブロックチェーン協会のサマー・マーシンガーCEOが指摘するように、この法的明確性は米国を暗号資産イノベーションの中心地として位置付ける重要な要素となるでしょう。
長期的な技術トレンドへの影響
これらの法案は、Web3、DeFi(分散型金融)、NFT市場など、暗号資産を基盤とする新興技術領域にも大きな影響を与えます。規制の明確化により、これらの技術のmainstream adoption(主流採用)が加速する可能性がある一方で、規制要件により技術的制約が生じる可能性もあります。
また、米国の規制方針は国際的な暗号資産規制の標準を設定する可能性があり、EU、日本、その他の主要国の規制政策にも影響を与えることが予想されます。これは、グローバルな暗号資産エコシステムの発展方向を左右する重要な要素となるでしょう。
【用語解説】
Digital Asset Market Clarity (CLARITY) Act
暗号資産の市場構造を確立し、規制区分を明確化する法案。暗号資産が証券か商品かを区別し、SECとCFTCの管轄を整理する。デジタルコモディティの定義を確立し、規制の不確実性を解消することを目的とする。
Guiding and Establishing National Innovation for US Stablecoins (GENIUS) Act
米国初の包括的ステーブルコイン規制法案。発行者に1:1の準備金保有を義務付け、AML(マネーロンダリング防止)法の遵守を求める。消費者保護と金融安定性の確保を目的とする。
Anti-CBDC Surveillance State Act
中央銀行デジタル通貨の発行を禁止する法案。連邦準備制度理事会が個人に直接デジタル通貨を発行することを阻止し、金融プライバシーと個人の自由を保護する。
ステーブルコイン(Stablecoin)
米ドルなどの法定通貨や安定資産に価値を連動させた暗号資産。価格変動を抑制し、決済手段として機能する。代表的なものにUSDTやUSDCがある。
CBDC(Central Bank Digital Currency)
中央銀行が発行するデジタル通貨。法定通貨のデジタル版で、政府による金融取引の監視が可能になる。中国のデジタル人民元が代表例。
carve-out(除外条項)
法案や規制において、特定の条件や対象を除外する条項。今回の場合、CBDC開発を明確に禁止する除外条項を指す。
【参考リンク】
米国議会公式サイト – CLARITY Act(外部)
米国議会が管理するCLARITY法案の公式ページ。法案の全文、審議経過、投票結果を提供
米国議会公式サイト – GENIUS Act(外部)
GENIUS法案の公式ページ。上院で可決された法案の詳細と審議過程を確認可能
米国下院金融サービス委員会(外部)
下院金融サービス委員会の公式サイト。暗号資産関連法案の審議情報を掲載
ブロックチェーン協会(外部)
米国の主要暗号資産業界団体。規制に関する政策提言と業界の立場を発信
SEC(米国証券取引委員会)(外部)
暗号資産が証券に該当する場合の規制監督機関。規制情報とガイダンスを提供
CFTC(米国商品先物取引委員会)(外部)
ビットコインなどデジタルコモディティの規制監督機関。分類情報を提供
【参考記事】
US House passes stablecoin legislation(外部)
ロイターによる法案可決の詳細報道。GENIUS法案がトランプ大統領署名待ちと報告
Congress passes 1st major crypto legislation(外部)
NPRによる米国初の主要暗号資産法案可決分析。トランプ大統領の役割を解説
House Passes ‘Crypto Week’ Bills(外部)
Investopediaによる「暗号資産週間」総括記事。3つの法案内容と業界影響を分析
【編集部後記】
今回の米国での暗号資産関連法案可決は、単なる海外のニュースではなく、日本の私たちにとっても大きな影響を持つ出来事です。米国が規制の明確化に踏み切ったことで、世界的な暗号資産市場の流れが変わる可能性があります。
皆さんは、この動きを見てどう感じられますか?日本の暗号資産規制も米国の動向に影響を受けるかもしれません。また、ステーブルコインの普及により、私たちの日常の決済方法も変わっていくのでしょうか?
一方で、CBDCへの反発など、プライバシーと利便性のバランスをどう取るかという問題も浮上しています。皆さんは、デジタル通貨の未来をどのように想像されますか?ぜひコメントで、あなたの考えを聞かせてください。