暗号資産詐欺OmegaPro事件、16カ月300%約束で945億円詐取の2人起訴

 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年7月8日、米国司法省は暗号資産投資詐欺事件で2人の男性を起訴した。起訴されたのは、ジョージア州・フロリダ州出身のマイケル・シャノン・シムズ(48歳)とニュージャージー州・フロリダ州出身のファン・カルロス・レイノソ(57歳)である。プエルトリコ地区で公開された起訴状によると、シムズ氏は創設者・戦略コンサルタント・プロモーター、レイノソ氏は南米・米国一部地域の運営責任者として、2019年から2023年にかけて「OmegaPro」という国際的な暗号資産マルチレベルマーケティングスキームを運営し、被害者から6億5000万ドル(約945億円)以上を詐取した。

OmegaProは外国為替取引を通じて16カ月間で300%のリターンを約束していたが、実際にはピラミッド型詐欺だった。2人はソーシャルメディアや贅沢なイベントを通じて富を誇示し、ドバイのブルジュ・ハリファにOmegaProロゴを投影するなどして投資家を騙した。後に同社がハッキングされたと主張した際、被告らは被害者の資金を「Broker Group」という新プラットフォームに移転したと告げたが、ユーザーはどちらからも資金を引き出せなかった。

2人は電信詐欺共謀罪とマネーロンダリング共謀罪に問われ、それぞれ最高20年の懲役刑が科される可能性がある。捜査はFBI、IRS-CI、HSIが主導し、タイ、コロンビア、ドイツ、トルコ、英国、インド、オランダの各支部、コロンビア検察庁、国際税務執行共同機構(J5)との国際連携により実現した。なお、起訴状は単なる告発であり、すべての被告は法廷で有罪が証明されるまで無罪と推定される。

From:
文献リンクTwo charged in $650 million global crypto scam

【編集部解説】

今回のOmegaPro事件は、暗号資産市場における詐欺手法の巧妙化と、それに対する当局の捜査技術の進歩を象徴的に示しています。単なる投資詐欺を超えて、現代のデジタル経済における複数の重要な課題が浮き彫りになりました。

暗号資産とMLMの悪質な融合

OmegaProが採用したのは、暗号資産投資とマルチレベルマーケティング(MLM)を組み合わせた手法です。従来の投資詐欺とは異なり、被害者自身が新たな投資家を勧誘するインセンティブ構造を持っていました。シムズ氏が創設者として戦略を立案し、レイノソ氏が南米・米国一部地域での運営を統括するという役割分担により、世界規模での被害拡大を可能にしています。

デジタル時代の詐欺演出手法

注目すべきは、ドバイのブルジュ・ハリファへのロゴ投影など、SNS時代に最適化された派手な演出です。これらの手法は、従来の口コミベースの詐欺とは一線を画し、視覚的インパクトによる信頼性の演出を狙ったものでした。現代の投資家、特にデジタルネイティブ世代が重視する「見た目の成功」を巧みに利用した点で、新しい詐欺パターンを示しています。

ブロックチェーン捜査技術の進化

一方で、当局の捜査能力も大幅に向上しています。2025年時点で、FBI、IRS-CI、HSIなどの機関は、ブロックチェーン分析ツールを駆使した高度な追跡技術を保有しています。暗号資産の匿名性は完全ではなく、むしろ全取引が記録されるという特性を活かした捜査手法が確立されつつあります。

前例のない国際連携体制

今回の事件では、米国の3つの主要捜査機関に加え、タイ、コロンビア、ドイツ、トルコ、英国、インド、オランダの各HSI支部、コロンビア検察庁、さらに国際税務執行共同機構(J5)という多国間組織が連携しました。これは暗号資産詐欺の国境を越えた性質に対応する、新しい国際捜査体制の確立を意味します。

規制環境への長期的影響

本事件は、暗号資産業界全体の規制強化につながる可能性があります。特に、MLMと組み合わせた投資スキームに対する監視が強化され、正当な暗号資産事業者にとっても、より厳格なコンプライアンス体制が求められることになるでしょう。

技術の二面性と法的手続きの重要性

興味深いのは、犯罪に使用された暗号資産技術が、同時に犯罪捜査のツールとしても機能している点です。ブロックチェーンの透明性と不変性が、最終的には犯罪者の逮捕につながったという皮肉な結果となりました。ただし、起訴状は単なる告発であり、法的手続きを経て有罪が証明されるまで被告は無罪と推定される点も重要です。

今後、類似の事件を防ぐためには、投資家教育の充実と、技術革新に対応した規制フレームワークの構築が不可欠となります。同時に、正当な暗号資産事業の発展を阻害しない、バランスの取れた対応が求められています。

【用語解説】

マルチレベルマーケティング(MLM):既存の参加者が新しい参加者を勧誘し、勧誘者が新規参加者の売上から収益を得る販売手法。正当なものもあるが、ピラミッド型詐欺の隠れ蓑として使われることも多い。

外国為替取引(Forex):異なる通貨間の交換レートの変動を利用して利益を得る金融取引。24時間取引可能で流動性が高いが、高リスクでもある。

ブロックチェーン分析:暗号資産の取引履歴を追跡・分析する技術。公開台帳の性質を利用して、資金の流れや関連するウォレットアドレスを特定する。

仮想通貨(暗号資産):暗号技術を用いて取引の安全性を確保するデジタル通貨。ビットコインやイーサリアムなどが代表例。

プエルトリコ地区:米国の司法管轄区域の一つ。連邦犯罪の起訴において重要な役割を果たし、国際的な金融犯罪案件も扱う。

起訴状(indictment):検察官が容疑者を正式に刑事告発する法的文書。大陪審による審査を経て発行される。告発の段階であり、有罪判決ではない。

電信詐欺(Wire Fraud):電子通信手段を利用した詐欺行為。インターネットや電話を使った詐欺が対象となる連邦犯罪。

マネーロンダリング:犯罪収益の出所を隠蔽し、正当な資金であるかのように見せかける行為。暗号資産を使った手法が近年増加している。

国際税務執行共同機構(J5):オーストラリア、カナダ、オランダ、英国、米国の税務当局による国際的な共同捜査組織。

【参考リンク】

米国司法省(Department of Justice)(外部)
米国の法執行機関の総本山。連邦犯罪の捜査・起訴を担当し、今回のOmegaPro事件も管轄している。

FBI(Federal Bureau of Investigation)(外部)
米国連邦捜査局のサイバー犯罪部門。暗号資産関連の犯罪捜査を専門的に行っている。

IRS刑事捜査部(IRS Criminal Investigation)(外部)
国税庁の刑事捜査部門。税務犯罪とマネーロンダリングの捜査を担当している。

HSI(Homeland Security Investigations)(外部)
国土安全保障省の捜査部門。国境を越えた金融犯罪の捜査を行っている。

IC3(Internet Crime Complaint Center)(外部)
FBIが運営するインターネット犯罪の報告センター。暗号資産詐欺の被害報告も受け付けている。

FBI OmegaPro被害者情報募集ページ(外部)
OmegaPro事件の被害者向けの情報提供を呼びかけている専用ページ。

【参考記事】

OmegaPro Founder and Promoter Charged for Running Global $650M Foreign Exchange and Crypto Investment Scam(外部)
米国司法省による公式発表。OmegaPro事件の詳細な経緯と起訴内容、被告の役割、国際連携について詳細に説明している。

Seeking Victim Information in OmegaPro Investigation(外部)
FBIによる被害者情報の募集ページ。OmegaPro事件の被害者向けの情報提供を呼びかけている。

The State of Crypto Scams 2025: Keeping our industry safe with blockchain analytics(外部)
2025年の暗号資産詐欺の動向とブロックチェーン分析技術の進歩について解説している。

Understanding Crypto Scam Trends in 2025 and Forensic Solutions in the Evolving Digital Asset Landscape(外部)
2025年の暗号資産詐欺トレンドと捜査技術の発展について専門的に分析している。

New FTC Rule Changes for MLMs in 2025: What Every MLM Owner Needs to Know(外部)
2025年のMLM規制強化に関する法律情報。今回の事件が規制環境に与える影響を理解するための背景情報。

Crypto MLM Warning Signs: Expert Guide to Avoid Scams in 2025(外部)
暗号資産MLM詐欺の警告サインと対策について専門家の視点から解説している。

2025 Crypto Crime Trends from Chainalysis(外部)
Chainalysis社による2025年の暗号資産犯罪トレンド分析。業界全体の動向を把握するための重要な資料。

Cyber Forensics Role in Investigating Cryptocurrency Frauds in 2025(外部)
2025年における暗号資産詐欺捜査でのサイバー法科学の役割について技術的観点から説明している。

【編集部後記】

暗号資産の世界は技術革新の最前線である一方で、今回のような巧妙な詐欺も生まれています。私たちinnovaTopia編集部も、この事件を通じて改めて考えさせられました。

皆さんは、投資判断をする際にどのような基準を設けていますか?特に「16カ月で300%」といった高リターンを謳う案件に出会った時、どんな点を疑問に思うでしょうか。

また、ブロックチェーン技術が犯罪捜査にも活用されている現状や、9カ国にわたる国際連携による捜査体制について、どのような印象をお持ちになりましたか?技術の二面性について、皆さんのご意見をお聞かせいただければと思います。

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乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!

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