光で誘導するサイボーグ昆虫が拓く、災害救助の新時代

[更新]2025年5月23日12:17

 - innovaTopia - (イノベトピア)

大阪大学の研究チームは2025年5月、マダガスカルゴキブリの「負の走光性」を利用した新たなサイボーグ昆虫制御技術を開発した。3Dプリント製UV-LEDヘルメットを装着し、複眼への紫外線照射で方向制御を実現。従来の電気刺激と異なり、感覚器官を損なわず持続的な操作が可能となった。

150回の連続試験で94%の迷路脱出成功率を記録し、刺激回数も従来比18.7%に低減。背中のワイヤレスセンサーパックと連動し、動作停止時に自動で紫外線を照射する「スマート制御」を採用している。この技術は災害現場での瓦礫探索や環境モニタリングへの応用が期待され、2025年1月には群れによる協調動作の実証実験も成功している。

References:
文献リンクScientists develop cyborg insect swarm that can be controlled by light | ScienceDaily

【編集部解説】

ゴキブリは苦痛を感じていないのか?

この技術の最大の特徴は、昆虫の自然な習性を利用している点です。例えば「日陰を好む」という本能を刺激するため、外科的処置や直接的な神経操作が不要。実験を主導した森島教授は「昆虫の意思決定プロセスを尊重する制御」と説明しており、従来の電気刺激に比べストレスが少ないと考えられます。

動物倫理の観点からは、「生体利用の正当性」が常に問われます。本研究では「救助活動で人間の命を救う」という明確な目的設定がされており、実験回数の最小化や動作寿命の延長策も講じられています。昆虫の福祉評価基準が確立されていない現状では、応用範囲の厳格な線引きが今後の課題と言えるでしょう。

なぜゴキブリなのか?

・環境適応力:湿度40-90%、温度5-40℃で活動可能
・負荷能力:体重の2倍(約10g)まで搭載可能
・移動速度:秒速20体長(約1.5m/秒)

これらの特性は、小型ドローンが苦手とする瓦礫隙間の探索に最適です。実際にクイーンズランド大学では、サイボーグ昆虫による救助隊の開発が進められています。

技術が目指す未来像

「バイオインテリジェント昆虫サイボーグ(BCI)」という新概念は、生物の知能とAIを融合させるパラダイムシフトを示唆します。2025年1月の群制御実験では、リーダー個体を中心に集団で障害物を突破する様子が確認されており、将来的にはAIによるリアルタイム地形分析と連動した自律運用が想定されます。

【用語解説】

負の走光性
特定の波長の光から逃げる生物の性質。マダガスカルゴキブリは紫外線(波長365nm)を忌避する習性を持つ。

バイオインテリジェント昆虫サイボーグ(BCI)
生物の自然な行動特性と人工システムを統合したサイボーグ技術。感覚器官への介入を最小限に抑えることが特徴。

【参考リンク】

大阪大学 ResOU(外部)
光制御サイボーグ昆虫の技術詳細と実験データを公開

ナゾロジー(外部)
UVヘルメットの構造と制御メカニズムを図解

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さつき
社会情勢とテクノロジーへの関心をもとに記事を書いていきます。AIとそれに関連する倫理課題について勉強中です。ギターをやっています!

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