ウォルマート、次世代AI「エージェンティック」導入 顧客・従業員向け4つのスーパーエージェント始動

 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年7月24日、ウォルマートは4つのAI「スーパーエージェント」の展開計画を発表した。世界最大の小売業者である同社は、買い物客、店舗従業員、サプライヤーと販売業者、ソフトウェア開発者向けにエージェンティックAIを搭載した4つのエージェントを展開する。このスーパーエージェントは、各グループがウォルマートと行うすべてのAIインタラクションのエントリーポイントとなり、既存の複数のエージェントやAIツールを統合する。

ウォルマートは5年以内にオンライン売上が総売上の50%を占めることを目標とし、AI活用でEコマース成長を促進する戦略である。同社の2024年年間売上は6,481億ドルであった。現在同社では週間90万人のユーザーが1日300万回AIツールを使用している。

顧客向けのSparkyは既にウォルマートアプリで利用可能で、商品提案や商品レビュー要約などを行う。スーパーエージェント形式では商品再注文、イベント企画、コンピュータビジョンによる冷蔵庫の中身からのレシピ提案が可能になると、米国最高技術責任者のハリ・バスデブがニューヨークのイベントで述べた。

従業員向けのAssociateスーパーエージェントは今後数か月で展開予定で、一部機能は来年リリース予定となっており、育児休暇申請や売上データ取得を支援する。販売業者向けのMartyはオンボーディング、注文管理、広告キャンペーン作成を担当する。Developerスーパーエージェントは全ての将来のAIツールのテスト、構築、起動プラットフォームとなる。

同社は7月23日に元インスタカート幹部のダニエル・ダンカーをAI加速、製品、デザイン担当エグゼクティブバイスプレジデントとして雇用し、新たなAI担当EVPポストも新設した。

From:
文献リンクWalmart bets on AI super agents to boost e-commerce growth

【編集部解説】

今回のウォルマートによるAI「スーパーエージェント」発表は、小売業界におけるAI活用の重要な動きです。これまでの生成AIとは一線を画す「エージェンティックAI」の本格展開により、人間の監視を最小限に抑えながら自律的に判断・行動するシステムが実現されます。

エージェンティックAIとは、従来のChatGPTのような対話型AIとは異なり、「認識・推論・行動・学習」の4段階プロセスで動作し、明確な目標に向かって複数のタスクを自動実行できる次世代技術です。従来の生成AIが人間のプロンプトに反応するのに対し、自ら目標を設定して行動する点が最大の特徴といえるでしょう。

注目すべきは、ウォルマートが4つの異なるステークホルダー向けに専用エージェントを開発している点です。顧客向けのSparky、従業員向けのAssociate、販売業者向けのMarty、開発者向けのDeveloperエージェントという包括的なアプローチにより、サプライチェーン全体にAIを浸透させる戦略が見えてきます。90万人の従業員が週300万回もAIツールを使用している現状は、同社のAI活用の深度を物語っています。

この背景には、5年以内にオンライン売上を総売上の50%まで押し上げるという同社の野心的な目標があります。年間売上6,481億ドルという規模を考えると、この数値の変化は業界全体に大きな影響を与えるでしょう。

しかし、この技術革新には複雑な側面もあります。2025年に入り、ウォルマートは企業スタッフ1,500人の削減を発表しており、AI投資との関連性が指摘されています。同社は直接的な関連を否定していますが、5億ドル以上のロボティクス投資と人員削減が同時期に進行している事実は見過ごせません。

ポジティブな側面として、ウォルマートは同時に5万人の従業員に対してドローン技術者やロボット監督者への転換訓練を実施しています。これは単なる雇用削減ではなく、労働力の再配置による持続可能な成長モデルを目指していることを示しています。

規制面では、現在のところ小売業界のAI活用に対する具体的な制約は限定的です。しかし、顧客データの取り扱いやプライバシー保護、AIによる意思決定の透明性について、今後より厳格な基準が求められる可能性があります。

長期的視点から見ると、この動きは小売業界全体のデジタル変革を加速させる触媒となるでしょう。アマゾンをはじめとする競合他社も類似の技術投資を進めており、消費者体験の標準が根本的に変化する時代の始まりを告げています。ただし、人間とAIの協働バランスをどう保つかが、今後の成功を左右する重要な要素となりそうです。

【用語解説】

エージェンティックAI(Agentic AI):生成AIの次世代技術で、「認識・推論・行動・学習」の4段階プロセスで動作する。従来の生成AIが人間のプロンプトに反応するのに対し、自ら目標を設定し、人間の監督を最小限に抑えながら自律的に計画・推論・行動できるAIシステム。

スーパーエージェント:複数の専門的なAIエージェントを統合し、一つのインターフェースとして機能するAIシステム。ウォルマートが開発した4つのスーパーエージェントは、それぞれ異なるユーザーグループ向けに設計されている。

Sparky:ウォルマートの顧客向けAIアシスタント。現在はアプリ内で商品提案やレビュー要約を行い、将来的には商品再注文やイベント企画、コンピュータビジョンによるレシピ提案も可能になる予定。

【参考リンク】

  1. Walmart(ウォルマート)(外部)
    世界最大の小売業者で、年間売上6,481億ドルを誇る。米国アーカンソー州ベントンビルに本社を置く。
  2. Instacart(インスタカート)(外部)
    アメリカの食品宅配サービス企業。北米全域で1,800以上の小売業者と提携している。
  3. Walmart Corporate(ウォルマート企業情報)(外部)
    ウォルマートの企業戦略、AI投資、持続可能性への取り組みなどの公式情報を提供。

【参考記事】

  1. Walmart Consolidates AI Strategy With ‘Super Agents’(外部)
    ウォルマートがAI戦略を統合し、断片化した複数のAIツールを4つの包括的なスーパーエージェントに集約する取り組みについて解説。
  2. Walmart unveils ‘super agent’ framework for AI tools(外部)
    ウォルマートのAIツール統合フレームワークと、各スーパーエージェントの具体的な機能と展開予定について詳細に報告。
  3. Walmart rolls out four AI ‘super agents’ as it makes major technology hire(外部)
    スーパーエージェント発表と同時に行われた元インスタカート幹部ダニエル・ダンカーの採用発表について報道。
  4. Inside Walmart’s Strategy for Building an Agentic Future(外部)
    ウォルマートのエージェンティックAI戦略の背景と長期的なビジョンについて、同社が公式に発表した詳細な解説記事。
  5. What is Agentic AI? | NVIDIA Blog(外部)
    エージェンティックAIの4段階プロセス(認識・推論・行動・学習)と産業界での具体的な応用例について詳述。

【編集部後記】

ウォルマートの今回の発表は、私たちの日常的な買い物体験を根本的に変えるかもしれません。AIが単なる検索ツールから、実際に行動を起こすパートナーへと進化する時代が始まろうとしているのです。

特に注目すべきは、冷蔵庫の中身を見ただけでレシピを提案し、必要な食材を自動で注文してくれるような機能です。もし実装されれば利便性が向上するだけではなく、私たちのライフスタイル自体を変える可能性を秘めています。

一方で、このような技術革新は雇用への影響も避けられません。ウォルマートが5万人の従業員再訓練を行っている事実は、AI時代において継続的な学習と適応がいかに重要かを物語っています。

小売業界でこれほど大規模なAI導入が進むということは、他の業界でも同様の変化が加速することを意味します。私たち一人ひとりも、AIとの協働に向けて準備を始める時が来ているのかもしれません。

この技術がもたらす恩恵を最大化しつつ、人間らしさを失わない社会の実現に向けて、企業と消費者が一体となって考えていく必要があるでしょう。

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まお
おしゃべり好きなライターです。趣味は知識をためること。

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