2025年7月16日、元Waymoの自動運転技術者らが設立したBedrock Robotics社が、ステルスモードを解除しました。同社は、既存の建設重機を4時間以内で自律化する後付けシステム「Bedrock Operator」を開発しています。
資金調達額はシードおよびシリーズAラウンドで総額8,000万ドル(約120億円)。8VCとEclipseがラウンドを主導しました。CEOはボリス・ソフマン氏。サンフランシスコに本社を置き、アリゾナ州などで15台以上を実稼働させています。米国での50万人の建設作業員不足に対応し、2026年の完全無人展開を目指します。
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Bedrock Robotics Emerges from Stealth with $80M in Funding for Autonomous Construction Technology
【編集部解説】
Waymoの自動運転トラック部門を率いた技術者らが、今度は建設業界に変化を起こそうとしています。彼らが立ち上げたBedrock Robotics社が開発する「Bedrock Operator」は、単なる重機の自動操縦システムではありません。
この技術の核心は、既存の重機に後付けできる点にあります。LiDAR、8つの高精細カメラ、GPS、IMU(慣性計測装置)などを搭載したキットを4時間程度で設置するだけで、従来機がセンチメートル単位の精度で自律作業を行うインテリジェントなマシンへと生まれ変わります。これは、高価な新型機を導入することなく、手持ちの資産を最先端技術でアップグレードできることを意味し、建設業界のDX導入における大きな障壁を取り払うものです。
Bedrock社のAIは、Waymoで培われた機械学習のアプローチを応用しています。単に設計図通りに動くだけでなく、土の硬さや地中の障害物からの抵抗といった、熟練オペレーターが経験で培う「暗黙知」をモデル化し、リアルタイムで作業に反映させます。CEOのボリス・ソフマン氏が「我々の機械は世界をナビゲートするだけでなく、彫刻するのだ」と語るように、これはまさにAIによる職人技の再現と言えるでしょう。
現在米国では50万人規模の建設作業員が不足し、今後10年で4割が引退すると見られています。Bedrock社の技術は、24時間稼働による生産性向上や、プロジェクト期間を最大30%短縮する可能性を秘めており、この深刻な人手不足に対する強力な解決策となり得ます。
もちろん、AIが万能というわけではありません。地中のガス管を誤って破損させるような事故のリスクは常に存在し、複雑で予測不可能な現場での安全性をどう担保していくか、法規制や業界標準の整備が今後の大きな課題となるでしょう。
しかし、この挑戦は、建設という巨大産業のあり方を根本から変える可能性を秘めています。労働力不足の解消に留まらず、安全性向上、ひいては災害復旧やインフラ維持といった社会貢献活動への応用も期待される、まさに「人類の進化のためのテクノロジー」と言えるのではないでしょうか。
【用語解説】
ステルスモード
スタートアップ企業が、開発中の製品やサービスを公にせず、秘密裏に事業を進める期間のことである。競合に情報を与えず、製品の完成度を高めるために用いられる。
後付けシステム(レトロフィットキット)
既存の機械や設備に、新しい機能を追加するための装置やソフトウェアのセットである。本件では、従来型の建設機械を自律化するために開発されたハードウェアとソフトウェアを指す。
LiDAR(ライダー)
レーザー光を対象物に照射し、その反射光を測定することで、対象物までの距離や形状を把握するセンサー技術である。自動運転車やロボットの「目」として広く利用される。
【参考リンク】
Bedrock Robotics(外部)
元Waymoのエンジニアらが設立した自律型建設技術企業。既存の重機を後付けで自律化するシステム「Bedrock Operator」を開発している。
Eclipse(外部)
Bedrock社のシードラウンドを主導した米国の投資会社。物理的な産業を革新するテクノロジー企業への投資を専門とする。
8VC(外部)
Bedrock社のシリーズAラウンドを主導した米国のテクノロジー投資会社。防衛、物流などの重要セクターを支援する。
【参考記事】
Waymo Veterans Launch Bedrock Robotics with $80M(外部)
CEOへの取材を基に、AIモデルの仕組みや物理的作用の学習など、技術的な詳細を解説している。
Bedrock Robotics brings in $80M for construction retrofit kits(外部)
後付けキットの構成要素(8つのカメラ、LiDAR等)や、センチメートル級の精度について詳報。
【編集部後記】
元Waymoの技術者たちが挑む、建設業界の自動化。このニュースに触れて、皆さんはどんな未来を想像されましたか?
例えば、熟練の職人技を学習したAIが24時間働き続ける未来は、私たちの暮らしや仕事のあり方をどう変えるのでしょうか。この技術が建設の枠を超え、災害復旧やインフラ維持に応用される可能性についても、ぜひ一緒に考えていけたら嬉しいです。