中国国家安全部「国産技術を選べ」 デバイスバックドアとサプライチェーン攻撃に警鐘

中国国家安全部「国産技術を選べ」 デバイスバックドアとサプライチェーン攻撃に警鐘 - innovaTopia - (イノベトピア)

中国国家安全部は2025年7月21日月曜日にWeChatチャンネルでデバイスのバックドアとソフトウェアサプライチェーン攻撃に関する警告を発表した

同省は開発者や製造業者がメンテナンス用に設置したバックドアを犯罪者が悪用する事例と、犯罪者が意図的にバックドアを実装するソフトウェアサプライチェーン攻撃について説明した。対処法として外国製技術製品を避け、国産品購入を推奨している。

同省は7月23日水曜日にも投稿を行い、外国勢力が中国の海洋観測センサーにバックドアを作成してデータを盗む可能性を警告した。中国漁民が海中から「ある国」が配備した水中監視装置を偶然回収したと主張し、この装置は周辺海域の水文情報と船舶活動データを秘密裏に収集していたとしている。

また「ある海洋公益組織」が関連部門へのデータ提供を口実に中国沿岸の海洋データを他目的で収集していると非難した。両投稿とも中国市民に情報セキュリティリスクについて自己教育し、疑念を当局に報告するよう呼びかけている。

From: 文献リンクChina warns citizens to beware backdoored devices, on land and under the sea

【編集部解説】

今回の中国国家安全部による警告は、単なる国内向けのセキュリティ啓発を超えて、グローバルテックエコシステムの構造的転換点を示唆する重要な出来事です。この動きは2025年7月に相次いで発生した中国関連のサイバーセキュリティ事案と連動しており、国際的な技術覇権争いの新たな局面を物語っています。

バックドアとサプライチェーン攻撃の技術的背景

バックドアとは、開発者が正当な目的(システム保守やデバッグ)で設置する「裏口」のことです。これ自体は一般的な開発手法ですが、悪意ある第三者がこの裏口を発見・悪用することで、リモートでデバイスを制御し、データを窃取することが可能になります。

サプライチェーン攻撃は、より巧妙な手法です。ソフトウェアの開発・配布過程で意図的にマルウェアを仕込み、最終ユーザーが気づかないうちに感染させる攻撃手法を指します。2025年7月には、中国系攻撃グループがMicrosoft SharePointサーバーの脆弱性を悪用した大規模攻撃も確認されており、この脅威の現実性を裏付けています。

地政学的文脈での技術分断加速

注目すべきは、中国が自国民に対して「外国製技術の回避」を公式に推奨している点です。これは単なるセキュリティ対策を超えて、技術的デカップリング(技術分離)の政策的推進を意味します。

同時期に米国でも、中国製医療機器への警戒が高まっており、両国間の技術不信が相互に拡大している状況が見て取れます。シンガポールでも中国系APTグループによる重要インフラ攻撃が進行中と発表されており、地域全体でサイバーセキュリティ緊張が高まっています。

海洋データ収集への懸念の新次元

今回特に興味深いのは、陸上デバイスに加えて海洋観測機器への警戒を表明している点です。海洋データは軍事・経済両面で戦略的価値が極めて高く、潜水艦の航行ルート分析や海底資源探査に直結します。

中国が「漁民が偶然発見した水中監視装置」について言及していることは、海洋監視技術の高度化と、それに対する各国の警戒感の高まりを反映しています。この分野での技術競争は、今後さらに激化することが予想されます。

テクノロジー業界への波及効果

この動向は、グローバルテック企業に複数の技術標準への対応を迫ることになります。同一製品でも地域ごとに異なるセキュリティ要件や技術仕様が求められ、開発コストとイノベーション速度に影響を与える可能性があります。

一方で、この状況はセキュリティファースト設計の重要性を業界全体に再認識させる効果も期待できます。Zero Trust Architecture(ゼロトラストアーキテクチャ)やSecure by Design(設計段階からのセキュリティ組み込み)といった概念の普及が加速するでしょう。

長期的視点での技術進化への影響

短期的には市場の分断とコスト増加を招く可能性がありますが、競争の多극化により、各地域で独自の技術的優位性を追求する動きが活発化することも予想されます。

特に、オープンソースソフトウェアの透明性とセキュリティ監査の重要性が再評価され、より安全で検証可能な技術基盤の構築が進む可能性があります。

この動向は、グローバルテックエコシステムが信頼とセキュリティを中核とした新たなパラダイムへと移行していることを示しており、今後のイノベーション戦略において重要な考慮要素となるでしょう。

【用語解説】

バックドア
システムやソフトウェアに意図的に作られた「裏口」のこと。開発者が保守やデバッグのために設置するが、悪意ある第三者に発見・悪用されると、リモートでデバイスを制御され、データを窃取される危険性がある。

サプライチェーン攻撃
ソフトウェアやハードウェアの開発・製造・流通過程で悪意あるコードを仕込む攻撃手法。最終ユーザーが気づかないうちにマルウェアに感染させることができるため、従来のセキュリティ対策をすり抜けやすい。

水文情報
海水温度、塩分濃度、潮流、水深などの海洋の物理的・化学的特性に関するデータ。軍事的には潜水艦の航行ルート分析や音響特性の把握に利用され、戦略的価値が極めて高い。

WeChat(微信)
中国のテンセント社が運営する総合SNSプラットフォーム。メッセージング、決済、ミニアプリなど多機能を統合し、中国で12億人以上が利用する国民的アプリ。政府機関の公式チャンネルも多数開設されている。

APTグループ
Advanced Persistent Threat(高度持続的脅威)の略。国家や組織の支援を受けた高度なサイバー攻撃グループで、長期間にわたって標的に潜伏し、機密情報の窃取や破壊活動を行う。

【参考リンク】

International Maritime Organization(国際海事機関)(外部)
国連の専門機関として海運の安全・セキュリティと海洋汚染防止を担当。176の加盟国を持つ。

【参考記事】

海外製IT製品に情報流出リスク、中国(外部)
中国国家安全部のバックドア警告について日本のアジア経済ニュースが詳細報道。

Microsoft、SharePointサーバー攻撃の背後に中国系ハッカーの存在を確認と発表(外部)
2025年7月のMicrosoft SharePoint攻撃で中国系ハッカー関与を詳述。

中国系APTグループUNC3886がシンガポール重要インフラへサイバー攻撃(外部)
シンガポール政府発表の中国系APTによる重要インフラ攻撃を詳細分析。

米当局、中国による偽装手段でのスパイ活動勧誘巡り政府職員に警告(外部)
米国家防諜安全保障センターが発表した中国による米政府職員スパイ勧誘警告。

【編集部後記】

今回の記事を執筆していて、つくづく感じたのは「技術の世界に国境が戻ってきた」ということです。

私たちが当たり前だと思っていたグローバルなテックエコシステム。アメリカ発のクラウドサービスを使い、中国製のスマートフォンでアクセスし、韓国製の半導体で動作する——そんな「技術に国境はない」時代が、確実に終わりを告げようとしています。

中国が「外国製技術を避けよ」と呼びかける一方で、アメリカでも中国製品への警戒は日増しに強まっています。TikTokの規制論議に始まり、ファーウェイの5G技術排除、そして今度は医療機器まで。まさに「その逆もある」状況が現実となっています。

この分断は一時的なものでしょうか?それとも、これが新しい世界秩序の始まりなのでしょうか?

技術者として複雑な気持ちになります。オープンソースの精神、知識の共有、協働によるイノベーション——これらの美しい理想と、現実の地政学的リスクとの間で、私たちはバランスを取らなければなりません。

でも、こうした分断が新たな競争を生み、かえって技術革新を加速させるかもしれません。各地域が独自の技術的優位性を追求することで、多様なソリューションが生まれる可能性もあります。

皆さんは、この技術分断の流れをどう見ていらっしゃいますか?私たちの日常に、どんな変化をもたらすと思われますか?一緒に考えていければと思います。

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TaTsu
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