2025年7月16日、innovaTopiaの記者TaTsuとして大阪・関西万博ルクセンブルクパビリオンを取材していた私は、建築物の美しい白い膜屋根に目を奪われた。
スペースアフタヌーンの貸し切りイベントのため一般展示は見られなかったが、建物の外観から感じられる循環型設計の思想に強い印象を受けた。
その日、私はルクセンブルク皇太子殿下や政府高官、そして日本の宇宙スタートアップ企業の代表らが語る「失敗を恐れない透明性」と「循環型経済への挑戦」を目の当たりにした。そして後日、この美しい膜屋根素材を再利用した世界初のアップサイクルバッグの予約数が400本を突破したという発表を知ることになった。
株式会社モンドデザインが展開するアップサイクルブランド「SEAL」は、2025年大阪・関西万博ルクセンブルクパビリオンで使用された膜屋根素材を再利用した限定バッグコレクションの予約状況を2025年7月16日に発表した。
2025年7月10日現在、累計予約数は約400本に達し、当初確保していた膜屋根素材の使用可能部分約500〜700平方メートルの半分程度をすでに使用する見込みである。
製品は4種類で、Travel Boston Bag Msize33,000円、One Shoulder Bag Spiral17,600円、Mini Wallet11,000円、Glass Case7,700円である。販売開始日は2025年5月15日で、製品のお届けは2026年5月予定である。
日本国内に加え、ルクセンブルク本国の個人・団体からも多数の予約を受けている。展示販売場所は大阪・関西万博ルクセンブルクパビリオン内とSEAL表参道本店である。株式会社モンドデザインは本社を東京都港区に置き、2006年11月17日設立、資本金1,000万円、代表取締役は堀池洋平である。
From: 【PRTIMES】予約数400本を突破。大阪・関西万博ルクセンブルクパビリオン屋根幕アップサイクルバッグ―全ての膜屋根活用に向けて予約好調
【編集部解説】
大阪・関西万博という国際的なプラットフォームで、ルクセンブルクが提案する「設計段階から廃棄後を考慮した建築」という概念が、実際の製品として市場に受け入れられていることに大きな意義があります。
循環型設計の実践例として見る意義
当日、私が目にしたルクセンブルクパビリオンの建物外観からも、「サーキュラー・バイ・デザイン(循環型経済の原則に従って解体を念頭において設計されていること)」を採用した建築物であることが感じられました。従来の万博パビリオンが「一時的な展示のための使い捨て建築」だったのに対し、同パビリオンは万博終了後、容易に解体し建材の一部を再利用できるよう、当初から構想・設計されています。

この取り組みは、同日の「スペース・アフタヌーン」でルクセンブルク皇太子殿下が語った「失敗を恐れない透明性」の精神と共通しています。月面着陸に失敗した宇宙船の模型を堂々と展示し、それを学習の機会として価値化する姿勢は、建築廃材を高付加価値製品に転換するアップサイクルの哲学と通底するものがあります。

Made in OSAKAとしての地域連携
今回のプロジェクトで特筆すべきは、大阪の老舗バッグメーカー「株式会社ふく江」との連携により「Made in OSAKA」として製造されている点です。加工の難しい膜屋根素材を熟練職人が手作業で丁寧に仕立て、地元生産という特徴的な取り組みを実現しています。
使用素材の技術的特徴
パビリオンの膜屋根に使用されているのは、フランスのSerge Ferrari社が開発した高機能素材です。耐久性と防水性を持ち、使用後でもバッグ生地としては強靭な素材として再利用可能な特性を持っています。色は白で、従来のSEAL製品に使用されていた廃タイヤチューブとは異なる素材感を提供しています。
カーボンフットプリントの定量化が持つ意味
モンドデザインが万博閉幕後に予定しているカーボンフットプリントの定量分析は、アップサイクル製品の環境効果を科学的に証明する試みです。回収・製造・販売を通じて二酸化炭素がどの程度削減できたかを定量的に分析することで、循環型デザインの実効性を明らかにする計画となっています。
国際的な反響の背景
ルクセンブルク本国からも多数の予約が寄せられている点は、万博を通じた国際的な循環経済ネットワークの形成を示しています。7月16日の取材で見た光景—日本とルクセンブルクの宇宙協力の精神から生まれた膜屋根素材が、両国の消費者に価値あるプロダクトとして届けられる循環—は、新しい国際協力のモデルといえるでしょう。
製造工程の特殊性
膜屋根素材は建築用途に設計された特殊素材であり、ファッション製品への転用には独自の技術が必要です。全ての製造工程が国内のバッグ製造に長年携わってきた職人の手によって行われ、加工の難しい素材を丁寧な作りでバッグに変える技術力が求められています。
受注生産による希少性
今回の製品は受注生産限定のアイテムとして位置付けられています。特別な素材を使用した限定品であり、万博という特別な機会でなければ製品化や実現がなかったアイテムとして、希少価値を持つプロダクトとなっています。
長期的な産業構造への影響
この事例が成功すれば、建築業界における「設計段階からの循環経済統合」が標準化される可能性があります。万博のような大型イベント後の廃材活用が制度化されれば、イベント産業全体の環境負荷削減につながる構造変化が期待できるでしょう。
私が現地で感じたのは、これが単なるビジネス成功事例ではなく、人類の未来への「実験」だということです。ルクセンブルクが宇宙開発で見せた「40年間の長期投資」と「失敗を恐れない透明性」の精神が、この膜屋根アップサイクルプロジェクトにも息づいています。



【用語解説】
アップサイクル
廃材や不要な物を、元の素材や用途よりも価値の高い製品に再生する手法。リサイクルが素材を分解して再利用するのに対し、アップサイクルは形状や特性を活かしながらより付加価値の高い製品に変換する概念である。
膜屋根
建築物の屋根に使用される膜状の素材。軽量で施工性に優れ、大スパンの構造物に適している。万博パビリオンなどの一時的建築物でよく採用される建築手法である。
サーキュラー・バイ・デザイン
循環型経済の原則に従って解体を念頭において設計されている建築設計手法。使用後の再利用を前提として当初から構想・設計される循環型設計の考え方である。
カーボンフットプリント
製品の原料調達から廃棄まで、ライフサイクル全体で排出される温室効果ガスの総量を二酸化炭素換算で表した指標。製品の環境負荷を定量的に評価する手法として活用される。
【参考リンク】
株式会社モンドデザイン(外部)
2006年設立のエコデザイン企業。アップサイクルブランド「SEAL」を展開し、廃タイヤや膜屋根素材を再利用した製品を開発・販売している
SEALブランド公式サイト(外部)
2007年創設された環境配慮型のものづくりを軸としたブランド。廃材を独自のデザインと国内の高い技術力で再生している
SEALオンラインストア – ルクセンブルクパビリオン特設ページ(外部)
ルクセンブルクパビリオン膜屋根アップサイクルバッグの詳細情報と予約受付を行う公式ページ
【参考記事】
ルクセンブルクと提携したElevationSpace|日本の「宇宙⇔地球」輸送ビジネス最前線(関連記事)
TaTsuが7月16日に同会場で取材したElevationSpaceとルクセンブルクの宇宙協力プロジェクト
鉄鋼から宇宙産業へ:ルクセンブルクの挑戦と日本の連携(関連記事)
7月16日のルクセンブルク館「スペース・アフタヌーン」での現地取材記事
【編集部後記】
7月16日、ルクセンブルク館の美しい白い膜屋根を見上げた瞬間、私の中でこんな疑問が浮かびました。「この建物は、いずれ解体されるんだよな…この素材、どうなるんだろう?」
同じ日に、私はルクセンブルク皇太子殿下が月面着陸に失敗した宇宙船の模型を指して「わずか数フィートでした」と淡々と語る姿を見ました。失敗を隠さない、むしろそこから学ぶことを価値として認める文化。そして40年かけて宇宙産業を育て上げた長期思考。
後日、プレスリリースでこの膜屋根バッグのことを知った時、まさに同じ精神を感じました。「建築廃材」を「高付加価値製品」に変える発想の転換。そして、それを国際協力で実現する仕組み。
私たちinnovaTopia編集部は、いつも読者の皆さんと一緒に「未来の種」を探しています。でも今回は、ちょっと違った質問をしてみたいのです。
皆さんが何かの建物や構造物を見る時、「これ、将来どうなるんだろう?」って考えたことはありますか?私がルクセンブルク館で感じた「その後への想像」を、皆さんも日常の中で体験したことはありますか?
そして、何かに挑戦する時、「失敗したらどうしよう」より「失敗からも何か学べるかも」と思えるような環境が、皆さんの職場や地域にはありますか?
ルクセンブルクの人口は63万人、兵庫県姫路市と同じくらいです(約52万人)。でもそこから学べることは、規模の問題ではなく「どう考えるか」の問題だということ。
皆さんの「小さな実験」や「身近な循環」のアイデア、ぜひ教えてください。一緒に、この変化の時代を面白がりながら歩んでいきましょう。