LUMA Arlesはフランス・アルル市のParc des Ateliersで2025年7月5日から新たな展覧会を開始した。
主な展示は、KOO JEONG Aによる「LAND OF OUSSS [KANGSE]」、David Armstrongの写真展、Peter Fischliの「People Planet Profit」、Ho Tzu Nyenの「Phantom Day and Stranger Tales」、Wael Shawkyの「I Am Hymns of the New Temples」、Bas Smetsの「Climates of Landscape」である。
会場はThe Tower、La Mécanique Générale、Les Forges、La Grande Halle、Le Magasin Électriqueなど複数に分かれる。
Peter Fischliの展示は2026年1月10日まで、Bas Smetsの展示は2025年11月2日まで開催される。LUMA ArlesはMaja Hoffmannが設立したLUMA Foundationが運営し、建築はFrank Gehryが担当した。
今回の展覧会は、アート、テクノロジー、環境、歴史、都市、資本主義など多様なテーマを扱い、Getty Research InstituteやChristian Dior Parfumsなどが協力している。
from: https://www.perplexity.ai/page/luma-arles-unveils-art-exhibit-4.XCLPmSRYKFGHF6Iws4WQ
【編集部解説】
LUMA Arlesの2025年展覧会は、アートとテクノロジー、環境、資本主義、都市、歴史といった多様なテーマを横断的に扱う点で、現代社会の複雑な課題や可能性を浮き彫りにしています。特にPeter Fischliの「People Planet Profit」やKOO JEONG Aの「LAND OF OUSSS [KANGSE]」は、単なる美術展にとどまらず、現代の社会構造や人間の認識、テクノロジーの進化がもたらす新たな現実への問いかけを含んでいます。
Fischliの展示は、資本主義社会における「人・地球・利益」の三位一体をテーマに、イメージやオブジェクト、データがどのように私たちの行動や感情、価値観を形成しているかを批評的に可視化します。展示空間自体が「拡張都市」として設計され、デジタルとフィジカルが絡み合う現代の都市生活を象徴しています。これは、AIやIoT、データ経済が進展する現代において、私たちがどのように情報や価値と向き合うべきかを考えさせるものです。
一方、KOO JEONG Aの「LAND OF OUSSS [KANGSE]」は、重力や空間、時間といった物理的・哲学的テーマを、彫刻や香り、光、インスタレーションを通じて体験的に表現しています。見えない力やつながり、個人と宇宙の関係性を探るこのアプローチは、テクノロジーがもたらす「新しい知覚」や「拡張された現実」とも共鳴します。
ポジティブな側面としては、アートが社会やテクノロジーの変化を先取りし、未来の価値観や都市像、働き方のヒントを与えてくれる点が挙げられます。一方で、資本主義やテクノロジーの進展がもたらす格差や情報過多、価値の希薄化といったリスクも内包しています。規制や社会制度のアップデートが追いつかない場合、アートが警鐘を鳴らす役割を果たすことも期待されます。
長期的には、こうした展覧会が社会全体の「未来認識」をアップデートし、テクノロジーと人間のより良い関係性を模索する場となるでしょう。innovaTopiaの読者にとっても、単なる海外アートニュースではなく、「人類の進化を支えるテクノロジーと創造性の交差点」として注目すべき事例です。
【編集部後記】
アートは世界に問いかけて我々に何かを呼び掛けてきた。
ー芸術と思想ー
今回の展示は、南フランスのアルル市で行われる。芸術の中心地であるフランス。そして、日本でも人気の高い画家である「ゴッホ」の作品として「アルルの寝室」が有名です。ゴッホが名作を生み出した街で、このような先進的な展示を行うというニュースは非常にセンセーショナルだと感じています。
ところで、ゴッホの名作として名高い「夜のカフェテラス」はアルルにて制作されました。日本では2025~2026年にかけて「大ゴッホ展」にて展示されることが決定しています。(筆者は見に行く予定です。)
彼の絵画はのちの表現主義やフォービズムに影響を与え、芸術界において独特の色彩感覚を以てして金字塔を打ち立てました。
一方で、彼の芸術界の活躍とは他に多くの人に彼の絵が愛されているのは、彼の激動の一生を象徴する生命力に満ちた筆致によるものなのではないでしょうか。夭折した小説家や音楽家の作品が時代を超えて愛されるのは、短い生涯の中で普遍的な思想を探求たからではないでしょうか。
芸術家たちは常に時代の深層構造を可視化する役割を担ってきました。 フェリックス・ゴンザレス=トレスが愛するパートナーの死を悼んで美術館の床に敷き詰めた飴玉の作品は、単なる追悼を超えて、AIDS危機という社会的沈黙に対する静かな抵抗であり、愛と死の普遍性への深い問いかけでした。
産業革命期の機械賛美の絵画群も、技術的進歩への讃美と同時に、人間性の機械化への潜在的な危惧を表現していたのです。芸術家は時代の本質を直観的に捉え、それを形象化することで、我々に新たな世界の見方をもたらしてきました。
オスカー・ワイルドが「芸術は人生を模倣するよりも、人生が芸術を模倣する」と喝破したように、我々の世界認識は芸術によって根本的に形成されています。
印象派が「光の質感」を発明し、私たちの視覚的認識を永続的に変えたように、ロマン主義が「崇高なる自然」の概念を創出し、風景への眼差しを革命的に変容させたように、芸術は現実の「見え方」そのものを構築してきました。
我々が「美しい夕暮れ」や「ロマンチックな情景」として認識するイメージの多くは、実は芸術作品によって与えられた認識の枠組みではないのかと思います。
この芸術の力は時として社会現象をも引き起こします。 1774年にゲーテが発表した小説『若きウェルテルの悩み』では、失恋に苦しむ青年が自殺する物語が描かれましたが、この作品に感化された若者たちの自殺が相次いだことから「ウェルテル効果」という言葉が生まれました。これは芸術作品が現実の行動様式まで規定する力を持つことを示す歴史的事例です。
近年TikTokで椎名もたの「少女A」が再評価され、Z世代の感性や価値観に深い影響を与えている現象も、この延長線上にあります。芸術は単なる表象ではなく、我々の生きる「現実」そのものを構築する力を持っているのです。
このような美学的文脈において、今回のLUMA Arles展覧会は単なる現代アート展を超えた歴史的意義を持っています。
「資本主義と都市」というテーマを通じて、デジタル・キャピタリズム時代における人間存在の根本的条件を問い直しているからです。AIとアルゴリズムが支配する世界において、芸術は新たな人間性の定義という使命を担っています。
この展覧会が提示する美的体験は、やがて我々の都市認識、労働観、さらには存在そのものへの理解を静かに、しかし決定的に変容させていくことでしょう。ゴッホがアルルで捉えた「南仏の光」が今なお我々の美的感性を規定しているように、現代の芸術家たちもまた、未来の人類の「見る目」を準備しているのです。
【編集部所感】
普段はサイエンスライターとして専ら「科学」の記事を執筆していますが、今回のような芸術分野の記事を公開しようとした経緯についてです。少し雑駁な話になりますが、「芸術、科学、哲学」は本質的に同じものであると私は考えています。
科学者は自分の思い描いた世界の描像や「世界はこのようにできている」という理論を数式や論文、モデルといった形で自分の世界を表明して、芸術家は自分の目に映ったものや感じたことを筆やペンで表現し、そして哲学者は世界がどのようなものであるのかを言葉と論理によって説明を試みています。
言ってしまえば「世界ってこういうものなのでは?」という提案を公理として世界中の人々に投げかけるという意味でこの3つは、共通していると思うのです。
私は学生時代に理学を専攻していましたが、よく好きで「西洋美術史」や「芸術論」の講義を受けていました。あまり当時は面白いから受講する程度でしたが、今思えば、芸術家が自分の表現を突き詰めて新しい形態の芸術を生み出す姿に、科学の営みと通じるところを感じていたのだと思います。
哲学についても昔小規模ながらプラトンとアリストテレスの輪読会を主宰していたことがあり、その時も哲学者が言葉を足掛かりにして、自分が打ち立てた問いに一歩一歩と論理を積み重ねていく筆跡に科学を感じていました。
今回の展覧は、言ってしまえば「資本主義の現在地点」を定義して、新しい資本主義の展望や私たちが、社会生活を営む上で当然の仕組みとして機能する資本主義に新しい光を当てるものです。
科学から新しいテクノロジーが生まれるように、芸術もまた新しいテクノロジーの濫觴となることを私は期待しています。
【用語解説】
- Parc des Ateliers
フランス・アルル市にある元鉄道工場跡地で、LUMA Arlesの主要な展示・活動拠点となっている複合文化施設。 - The Tower
建築家フランク・ゲーリーが設計したLUMA Arlesの象徴的なタワー型建築物。展示やイベント、研究スペースとして利用されている。 - Triple Bottom Line(トリプルボトムライン)
企業活動の成果を「人(People)」「地球(Planet)」「利益(Profit)」の3つの観点で評価する経営指標。 - インスタレーション
空間全体を使って体験を生み出す現代美術の手法。鑑賞者がその場に入り込むことで成立する作品形態。 - オルファクトリー(嗅覚)インスタレーション
香りを用いた体験型の美術作品。視覚以外の感覚を刺激することで新たな知覚を促す。 - 拡張都市(Augmented City)
デジタル技術やアートによって物理的都市空間が拡張・変容する概念。現実と仮想が融合した都市像を指す。 - マイクロクライメート(微気候)
都市や建築、ランドスケープの設計において、局所的な気候条件を意図的に作り出す手法やその現象。
【参考リンク】
- LUMA Arles
https://www.luma.org/en/arles.html
アルル市にある現代アートと文化の複合施設。展覧会やイベント、研究活動を展開している。 - KOO JEONG A : LAND OF OUSSS [KANGSE]
https://www.luma.org/en/arles/our-program/event/land-of-ousss-koo-jeong-a-74c2c3c1-033e-45c4-878d-ba9287ebde01.html
KOO JEONG Aによるフランス最大規模の個展。彫刻や香り、光を用いた体験型展示。 - Peter Fischli : People Planet Profit
https://www.luma.org/en/arles/our-program/event/people-planet-profit-peter-fischli-72b7c793-c649-439b-a4e7-f7d88874c52d.html
資本主義社会の象徴や価値観をテーマにしたPeter Fischliの個展。 - Ho Tzu Nyen : Phantom Day and Stranger Tales
https://www.luma.org/en/arles/our-program/event/contes-etranges-ho-tzu-nyen-10936eff-7e2b-499f-8c82-7341923c8d9b.html
東南アジアの歴史や神話をAIや映像で再構成したHo Tzu Nyenの展示。 - Wael Shawky : I Am Hymns of the New Temples
https://www.lissongallery.com/venice2024/venice-2024-wael-shawky-at-palazzo-grimani
神話と歴史の交錯を映像で表現したWael Shawkyの作品紹介。 - Bas Smets : Climates of Landscape
https://www.luma.org/en/arles/our-program/event/climats-du-paysage-bas-smets-dac838a6-84e4-4a0c-996d-e326a017ac17.html
都市と自然の関係をランドスケープデザインで探るBas Smetsの展示。 - LUMA Foundation
https://en.wikipedia.org/wiki/LUMA_Foundation
LUMA Arlesを運営する非営利財団。現代アートや環境、教育分野の支援を行う。 - Getty Research Institute
https://www.getty.edu/research/institute/
アートとその歴史に関する国際的な研究機関。資料やプログラムを提供している。