マイクロソフトは、異なる企業のAIエージェント間の連携と記憶力向上を目指している。この構想は2025年5月18日、同社の年次ソフトウェア開発者会議「Build」の前日に、マイクロソフトの最高技術責任者(CTO)ケビン・スコット氏によって明らかにされた。
ワシントン州レドモンドのマイクロソフト本社でのブリーフィングで、スコット氏は異なる開発者のAIエージェント間の連携を可能にする業界標準の確立を推進する取り組みについて説明した。AIエージェントとは、ソフトウェアのバグ修正などの特定のタスクを自律的に実行できるAIシステムである。
マイクロソフトは、Googleが支援するAnthropic社が開発したオープンソースプロトコル「Model Context Protocol(MCP)」を支持している。MCPは2024年11月5日にドラフト版が公開され、最新版は2025年3月26日にリリースされた。スコット氏によれば、MCPは1990年代にインターネットの普及を助けたハイパーテキストプロトコルと同様に、「エージェンティック・ウェブ」を創出する可能性がある。
また、マイクロソフトはAIエージェントの記憶力向上にも取り組んでいる。AIエージェントの記憶力を向上させるには多くの計算能力が必要となるため、同社は「構造化検索拡張」という新しいアプローチに焦点を当てている。これは、エージェントがユーザーとの会話の各ターンから短い情報を抽出し、議論された内容のロードマップを作成する方法である。
Build 2025カンファレンスは5月19日にシアトルで開催される。業界アナリストらは、このカンファレンスでマイクロソフトがAIシステム開発者向けの最新ツールやCopilotファミリーのAI製品について発表すると予想している。
References:
Microsoft wants AI ‘agents’ to work together and remember things
【編集部解説】
マイクロソフトが提唱する「AIエージェント間の協働と記憶力向上」というビジョンは、AI技術の次なる進化を示す重要な動きです。この発表は2025年5月18日に行われ、5月19日から始まるBuildカンファレンスに先駆けたものです。
マイクロソフトが支持する「Model Context Protocol (MCP)」は、Anthropicが開発したオープンソースプロトコルで、異なる開発者のAIエージェント間の相互運用性を実現します。これにより「エージェンティック・ウェブ」という、AI同士が連携する新たなエコシステムが創出される可能性があります。
しかし、MCPにはセキュリティの脆弱性やプライバシーの問題、一企業依存のリスクも指摘されています。
AIエージェントの記憶力向上については、マイクロソフトは「構造化検索拡張」というアプローチを採用。これは会話から重要情報を抽出してロードマップを作成する方法です。しかし、記憶力を持つAIには「欺瞞」「プライバシー侵害」などのリスクも存在します。
この取り組みにより、ユーザーはより一貫性のあるAI体験を得られる可能性がありますが、プライバシー保護やセキュリティ確保、適切なガバナンス体制の構築も重要な課題となるでしょう。
【用語解説】
AIエージェント:
特定のタスクを自律的に実行できるAIシステム。単に質問に答えるだけでなく、ユーザーと一緒に、あるいはユーザーの代わりに作業を行うことができる。例えば、ソフトウェアのバグ修正や顧客からの質問への回答など、特定の専門性を持つようにカスタマイズできる。
Model Context Protocol (MCP):
AIモデルと外部システムのやりとりを標準化するオープンプロトコル。2024年11月にAnthropicによってオープンソースとして公開され、最新版は2025年3月26日にリリースされた。様々なWebサービスやアプリを繋ぐための技術で、AIサービスと複数のサービスとの連携を統一的かつ効率的に行えるようにする。1990年代のHTTPがインターネットを普及させたように、AIエージェント間の連携を可能にする基盤技術と位置づけられている。
エージェンティック・ウェブ:
異なるAIエージェント同士が連携して動作する新たなエコシステム。MCPのような標準プロトコルにより実現される、AIエージェントが相互に連携する未来のウェブ環境を指す。
構造化検索拡張:
AIエージェントの記憶力向上のためのマイクロソフトのアプローチ。エージェントがユーザーとの会話の各ターンから短い情報を抽出し、議論された内容のロードマップを作成する方法。人間の脳が全ての情報を常に処理するのではなく、必要な情報を効率的に取り出すように機能する仕組みに似ている。
【参考リンク】
マイクロソフト (Microsoft)(外部)
クラウド、AI、生産性向上ソフトウェア、コンピューティング、ゲームなどを提供する世界的テクノロジー企業。
Anthropic(アンソロピック)(外部)
2021年にOpenAIの元幹部が設立したAI企業。対話型AIチャットボット「Claude」を開発している。
Claude(クロード)(外部)
Anthropic社が開発した最先端の生成AIモデル。ChatGPTやGeminiと同様の対話型AI。
Microsoft Copilot Studio(外部)
マイクロソフトが提供するAIエージェント作成ツール。専門知識がなくてもAIエージェントを構築できる。
Azure AI Agent Service(外部)
マイクロソフトのクラウドサービスAzure上で提供されるAIエージェント構築サービス。